point
- 新しく開発されたアイスキャンは、人の「生物学的年齢」を割り出せる
- 水晶体に含まれるタンパク質は老化分子を蓄積し続けており、アイスキャンによって検出可能
- 将来、簡単な網膜スキャンだけで「本当の年齢」が分かるようになるかも
「年齢」は生きてきた年数を表わす数字であり、その人の本来の「生物学的年齢」を示すものではありません。
人が異なる速度で老化するという事実は一般的ですが、個人の「生物学的年齢」を測定するのは非常に難しいこととされてきました。
しかし、米国ボストン大学医学部分子老化・発達研究室のリー・E・ゴールドスタイン氏らの新しい研究によって、「生物学的年齢」を測定できる特殊な眼球スキャナーが考案されました。
水晶体を測定するだけで、その人の「本当の年齢」が分かるのです。
人の老化速度は異なる
人の老化速度は様々な要因によって影響を受けます。
例えば、喫煙、血圧、体重、病気はいずれも平均寿命に大きな影響を与えるものとして知られています。
加えて、2016年に行われたカルフォルニア大学の研究によると、それら環境要因が同じだったとしても、人によって老化のスピードは異なるとのこと。
これは個々が異なった「体内時計」を持っていることを意味します。
実際に、「速く老化する人」と「遅く老化する人」を比べると、年齢・環境要因が同じでも次の10年で死亡する確率が約30%も異なっているのです。
このように人の「生物学的年齢」は「遺伝的要因」と「環境要因」によって大きく異なります。もちろん、様々な研究によってこれらを測定することはできますが、複雑で時間がかかるものでした。
そのため、迅速で簡単かつ正確な「生物学的年齢」の測定方法が求められてきました。
眼球スキャンで「生物学的年齢」が分かる
ボストン大学の研究者たちは、人の正確な「生物学的年齢」を測るために、体内に存在する「長寿命タンパク質」に注目しました。
これら長寿命タンパク質は、再生しない器官(骨格筋、心臓、脳)、細胞外マトリックス結合組織(腱、軟骨)および眼球の水晶体に含まれます。
そして、これらのうち水晶体だけが光学的なスキャンで読み取れるタンパク質を含んでいます。
さらに、水晶体は胎児期に発現するものであり、生涯を通じて分子の変化を蓄積し続けていきます。
そのため眼球の水晶体は、タンパク質の老化を定量的に評価するのに理想的な組織だと言えるのです。
ゴールドスタイン氏らが開発した「眼球スキャナー」は水晶体のタンパク質の老化を測定でき、これに基づいて生物学的年齢を算出できます。
彼によると、新しい方法は以前の遺伝的手法よりも「非常に優れた精度を持ち、より簡単な方法で実施できる」とのこと。
将来的には、医師が患者の網膜をスキャンするだけで生物学的年齢を特定できるようになるかもしれません。
簡単・迅速・安全な生物学的年齢の測定は、数字だけの「年齢」に惑わされること無く、より個々に合った医療の提供に繋がるでしょう。
今後研究チームは、眼球スキャンの大規模な臨床試験の実施とさらなるデバイス検証を計画しています。
この研究は6月9日、「Journal of Gerontology:Biological Sciences」に掲載されました。
In Vivo Quasi-Elastic Light Scattering Eye Scanner Detects Molecular Aging in Humans
reference: zmescience
提供元・ナゾロジー
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