人の「代謝」は、歳を重ねるごとに変化します。

代謝率の低下は、便秘や肥満の原因とされ、いわゆる「中年太り」などもその結果とされてきました。

一方で、代謝率が年齢ごとにどう増減するかは、ほとんど分かっていません。

そこで今回、米・デューク大学(Duke University)らが調査したところ、驚くことに、代謝率は20代〜50代で落ちないことが判明しました。

歳をとってウエストが太くなるのは、代謝のせいではないかもしれません。

研究は、8月13日付けで学術誌『Science』に掲載されています。

目次

  1. 20代〜50代まで代謝は落ちない
  2. 代謝が落ちるのは60代から

20代〜50代まで代謝は落ちない

代謝は大きく「基礎代謝」「新陳代謝」に分けられます。

基礎代謝とは、何もしなくても身体が勝手に消費するエネルギー量(=生きるために必要な最低カロリー量)のことです。

基礎代謝が上がると、体内のエネルギー消費量が増え、それに伴って体が活性化し、体温が上昇します。

メリットは、免疫力が上がったり、太りにくくなることです。

一方の新陳代謝とは、体内の古いものと新しいものが入れ替わる活動を指します。

古い細胞が新しい細胞に入れ替わることで、髪の毛や皮膚が新たに生成されるのです。

肌荒れや冷え性、便秘、肥満の予防につながります。

それでは、これらの代謝率は、年齢とともにどう変動するのでしょうか?

研究チームは、29カ国を対象に、生後8日〜95歳までの人、計6421名の膨大なデータを収集し、分析しました。

各人の1日の総エネルギー消費量を測定するため、チームは「二重標識水(Doubly-Labelled water、DLW)法」を用いています。

DLW法は、「重水素」と「酸素-18」の2種の安定同位体を用いた水を被験者に摂取させ、どれだけ早く尿から排出されるかを調べることで、体が消費する1日のエネルギー量(=代謝率)を測定する方法です。

これにより、生きるために必要なエネルギー量だけでなく、1日に消費されたすべてのエネルギー量が算出できます。

ヒトの代謝は「20代から50代では低下しない」ことが明らかに
(画像=代謝率と中年太りは関係ない? / Credit: jp.depositphotos、『ナゾロジー』より 引用)

結果、人の代謝率は乳幼児期にピークを迎え、20代に入るまでに約3%ほど低下することが判明しました。

10代は成長期に当たりますが、被験者の体格を考慮したところ、思春期の1日の必要カロリーの増加はなく、世間一般で言われるような「代謝の急上昇」は見られていません。

そして、20代〜50代の間は、代謝率が最も安定し、低下することなく横ばいになっていたのです。

また、他の要因を考慮しても、男性と女性の代謝率の変化には、実質的な違いがありませんでした。

つまり、中年太りは、代謝の低下が原因ではないと考えられます。

では、代謝率はいつから低下するのでしょうか?

代謝が落ちるのは60代から

データ分析の結果、代謝率が明確に下がり始めるのは60歳を過ぎてからでした。

60代に達すると、人の代謝は年ごとに0.7%ほど低下するとのこと。それでも低下率はわずかなもので、大きな急落はありません。

しかし、90代に入ると、1日に必要なエネルギー量は、中年層に比べて平均26%少なくなっていました。

これは、筋肉量が少なくなるだけでなく、細胞の働きが鈍くなるためです。

ヒトの代謝は「20代から50代では低下しない」ことが明らかに
(画像=代謝率は60代から少しずつ低下 / Credit: jp.depositphotos、『ナゾロジー』より 引用)

研究主任の進化人類学者、ハーマン・ポンツァー氏は「代謝率が最も大きく変化するのは、生後1年の間」と指摘。

「1歳児は、大人に比べると、体格比で約50%もはやくエネルギーを消費しており、この時期の代謝率は急上昇していると言える」と述べています。

これは、赤ちゃんの細胞内で何かが起こり、活動的になっていることを意味しますが、その詳しいプロセスはまだ分かっていません。

ポンツァー氏は「本研究から、人の代謝は、これまで十分に理解されていなかった方法で、生涯にわたり変化していることが分かりました。

今後は、年齢ごとの代謝率の変化や安定化について、その仕組みを解明していきたい」と話しています。

参考文献
Huge Study Finds Our Metabolism Changes With Age, But It’s Not When You Think
Metabolism doesn’t change with age — at least not how you think it does
元論文
Daily energy expenditure through the human life course

提供元・ナゾロジー

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