夕陽に輝く砂浜、打ち寄せるさざ波、水平線の上をゆく小鳥たち…
目を閉じた状態で、この風景を頭に思い描くことができますか。おそらく、ほとんどの人が苦もなくできるでしょう。
しかし、こうした「頭の中でイメージを視覚化する能力」は誰もが持っているわけではありません。
この脳内イメージングができない症状を「アファンタジア(Aphantasia)」と呼びます。
例えば、小説を読むとき、文章の意味は理解できても、人物や情景の視覚化ができなかったり、睡眠時の夢に絵がついていなかったりするのです。この症状は、全人口の2〜5%に現れると言われます。
その存在は1800年代から知られているものの、それ以後、詳しい研究はほとんど進んでいませんでした。
しかし今回、オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学により、アファンタジアに関する新たな事実が判明しました。アファンタジアは、単に視覚イメージの欠如だけでなく、他の感覚にも影響していたのです。
「過去の想起」や「未来の想像」が視覚化できない?
研究では、667名の被験者(うち267名がアファンタジア)を対象に、夢や記憶、視覚化、トラウマ反応などを含む8つのアンケート調査を行いました。アンケートはこちら(英語)から閲覧可能です。
例えば、視覚イメージの鮮明度アンケートでは、記憶の鮮明度を1(内容は分かるが、絵がまったく付いていない)〜5(通常の視覚と同じくらい鮮明)段階で評価してもらいました。
本研究は、アファンタジアに関する最も大規模な調査となっています。
結果、アファンタジアの人には、「過去を思い出すこと」や「未来を思い描くこと」など、記憶イメージを用いる認知機能に低下傾向が見られました。これは、イメージの視覚化に、記憶の想起プロセスが重要であることを示唆しています。
他にも、夢を見る頻度が少なく、夢の映像も鮮明でなかったり、最初に述べたように、夢に映像がついていなかったりしました。アファンタジアの人が見る夢は、まるでラジオドラマのように音声だけの場合があるのです。
視覚だけじゃない。他の感覚機能にも影響
また、アファンタジアを自覚する被験者の中には、視覚以外の感覚機能への影響を訴える人もいました。
例えば、聴覚や触覚、嗅覚、味覚に関する記憶のイメージ化も曖昧になっていたのです。しかし、イメージ化の低下が見られる感覚やその度合いは、アファンタジアの中で異なり、一貫してはいません。
しかし、興味深いことに、一般の被験者とアファンタジアに違いが見られなかったのは「空間把握力」でした。これは物同士の間の距離感や位置関係を理解する能力であり、地図やルートの理解、遊びならテトリスなどのゲームに用いられます。
空間把握には、視覚イメージがあまり関係しないのかもしれません。
一方で、これらの結果は、被験者の自己申告に依存しているため、より客観的な調査が必要になります。アファンタジアの謎は、まだまだ深いようです。
研究の詳細は、6月22日付けで「Scientific Reports」に掲載されました。
A cognitive profile of multi-sensory imagery, memory and dreaming in aphantasia
reference: sciencealert, newsroom / written by くらのすけ
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