Point
■中央アジアにある墓地遺跡で、2500年前の大麻の痕跡が発見された
■当時の人々は、宗教的な儀式や死者との交信に大麻を使用していたとのこと
■墓地はシルクロードの中継地点に位置しており、交易の中で大麻が他の地域に広がっていったと考えられる
現在、世界にはおよそ1億5千万人の大麻使用者がいる。
大麻にはテトラヒドロカンナビノール(THC)という向精神物質が含まれており、これが多幸感といった幻覚作用を引き起こす原因だ。こうした大麻のメカニズムは今でこそ知られてはいるが、いつから大麻が幻覚剤として使用され始めたのかは分かっていなかった。
ところが中国科学アカデミーの新たな研究によって、人類は少なくとも約2500年前には大麻を向精神剤として使い始めていたことが明らかとなった。しかも当時の人々は、大麻を死者との交信など宗教的儀式の一環として用いていたというのだ。
研究の詳細は、6月12日付けで「Science Advances」上に掲載されている。
The origins of cannabis smoking: Chemical residue evidence from the first millennium BCE in the Pamirs
遺跡の中に大麻の痕跡を発見
大麻の痕跡が発見されたのはパミール高原(中央アジア)にあるジルザンカル墓地という遺跡だ。
円形に掘られた墓地の中には複数の葬儀用香炉が見つかっており、その周囲には円状に並べられた石が置いてあった。香炉の木片を分析すると、大麻に含まれるTHC物質の痕跡が発見された。
研究チームのYimin Yang氏によると「石は死者を弔うため意図的に配置されたもので、その並びから、当時の人は神的な存在や死者との交信のために大麻を使っていたことが伺える」と話している。
シルクロードを通って大麻が流通した
墓地で発見された香炉はスキタイ民族のものであることが分かっている。彼らは紀元前9世紀〜紀元後4世紀に中央アジアで栄えたイラン系遊牧民であり、最盛期は中国から黒海北部まで影響力を持っていた。
現在の墓地周辺は人が足を踏み入れない場所となっているが、かつてはシルクロードの重要な中継地点として機能していたようだ。その交易活動の中で、現地の習慣となっていた大麻が徐々に時間をかけて他の地域に広がっていったと考えられている。
野生の大麻にTHCが多く含まれているのはなぜ?
今回見つかった大麻が野生のものなのか、それとも当時の人たちが人工的に育てていたのかはわかっていない。
確かに中央アジアにある水分の豊富な場所では大麻が育っているが、こうした野生の大麻に含まれるTHCの量は幻覚作用を引き起こすほど多くはないという。
ところが墓地にあったTHCは向精神効果をもたらすのに十分な量に達していた。しかし2500年も前の人々が合成大麻を作る技術を持っていたとは考えにくい。
チームの仮説としては、高度の高い場所に生えていた大麻が、紫外線の照射によってTHC成分を活発に作り始めたということである。そして山を散策していた現地民がTHCの豊富な大麻を発見した可能性が高いと指摘している。
しかし古代の大麻が現代のものと比較してどれほどの中毒性や副作用があったのかは分からない。ただ宗教的な解脱感と思い込むほどハイな状態に達していたことは確かのようだ。
reference: inverse / written & text by くらのすけ
提供元・ナゾロジー
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