・ある仕事に熟練したマウスは、その仕事を行う前から脳神経細胞が働いている
・初心者の脳は色々なことに神経を働かせているのに対し、専門家の脳は目の前の仕事に神経を集中させることが出来ている
熟練の大工は、大工見習いと比べ物にならないほどのスピードと正確性で家を建てることができます。
では、どうして初心者と専門家には、ここまでの大きな違いがあるのでしょうか?
大抵の場合、初心者の方が若いので、専門家よりも、脳の思考速度や記憶力、体力などの身体的能力の点で優れていることが多いはずです。しかし、一夜漬けのように知識を得た初心者では、専門家のような結果を出せません。
では、初心者と専門家が生み出す行動や結果の違いには、何が関係しているのでしょうか?
最近の実験によって、初心者と専門家では、ニューロンの働きが異なっていることが判明しました。
Excitatory and Inhibitory Subnetworks Are Equally Selective during Decision-Making and Emerge Simultaneously during Learning: Neuron
マウスの意思決定実験でニューロンの働きが明らかに!
ニューロンとは生物の脳を構成し、人間や動物の記憶や学習、発想などに深く関わる神経細胞のことです。ニューロン同士はシナプスと呼ばれるパイプで繋がっており、脳内での情報のやり取りに行っているのです。
アメリカのコールドスプリングハーバーラボラトリー(CSHL)などの研究者は、マウスがタスクを実行し続けて訓練されることで、ニューロンの働きがより集中することを発見しました。
実験では、マウスに「目の前にある3つの水しぶきのうち、1つを舐める」仕事を与えました。それぞれの水しぶきには確率と報酬が設定されています。高確率で報酬が得られる水しぶきもありますし、低確率でしか報酬を得られない水しぶきもあるというわけです。
4週間かけてこの仕事を繰り返すうちに、マウスたちはこの仕組みを学習し、水しぶき舐めの初心者から専門家へと成長。
そのマウスたちの脳を測定したところ、専門家となったマウスのニューロンは、特定の仕事においてのみ、より迅速に反応するようになりました。
一方、学習し始めたばかりのマウスは、実際に1つの水しぶきを選ぶまではニューロンが反応しません。しかし専門家となったマウスは、水しぶきを選ぶ前から、ニューロンが働いていたのです。
研究者であるチャーランドはこのように述べています。「初心者の脳は様々なことに対して働いており、ニューロンも様々な物事に関与しています。しかし、専門家の脳は、今行おうとしていることに集中しているのです」
つまり、初心者のニューロンはマルチタスクをしているのに対して、専門家のニューロンはシングルタスクができるようなっているのです。
このマウス実験から、初心者と専門家の違いにはニューロンの働きが大きく関係していることが分かりました。初心者は能力や知識があったとしても、それらを上手く活用することができず、ニューロンの作用に「無駄がある」ようです。
対して、専門家のニューロンは特定の仕事に特化して働きます。その分野に対してのみ割ける脳の割合が大きいので、ちょっとした変化に気付いたり、様々な情報も仕事に関連付けたりできます。
仕事に熟達した人が、仕事外でもちょっとしたきっかけで仕事のことを考えてしまう「職業病」も、実はこのようなニューロンの働きが関係していると言えるのでしょう。
ニューロンの働きは行動予測に役立つ
専門家におけるニューロンの働きは、生物に共通するものです。ですから、この発見は生物の行動予測に大きく貢献するでしょう。
驚くべきことに、現在でもニューロンの働きを人口ネットワークにミラーリングすることにより、動物の行動を高精度に予測する技術が存在します。
この進展は、高精度な人間行動予測さえも可能になる時代が近いことを示しているのかもしれません。
reference: sciencedaily / written by ナゾロジー編集部
提供元・ナゾロジー
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