お風呂やプールに長く浸かっていると、指先がシワシワになります。
誰もが一度は経験しているはずですが、なぜシワシワになるのか、不思議に思ったことはないでしょうか?
ここでは、指がシワシワになるメカニズムを説明し、さらに、科学者たちが主張する「進化的メリット」について紹介していきます。
どうやってシワシワができる?
まず、人の皮膚はたくさんの層に分かれています。
一番上の層が「表皮」、その下に「真皮」があり、細い血管や神経、汗腺、毛根などが詰まっています。
一番下の層が「皮下組織」と呼ばれ、太い血管や神経、脂肪や結合組織などがあります。
水に長時間さらされてシワシワになるのは、一番上の表皮の部分です。
さらに言うと、表皮は、角質層・顆粒層・扁平上皮層・基底細胞層という4つの層に分かれています。
シワは表皮の一番上の層である角質層で起こります。
角質層には、水を吸収しやすいタンパク質の「ケラチン」が含まれており、たとえるなら、スポンジのような場所です。
水に長時間さらされると、増えた水分量を補うために角質層が膨張し、また元の位置に戻ろうとすることでシワシワができます。
また、手や足の指先は、ほかの部位に比べて角質層が厚いために、よりシワシワができやすいのです。
以上が、シワシワのできる生物学的なしくみですが、それでは、シワシワには人類の進化においてどんなメリットがあるのでしょうか。
シワシワは「滑り止め」だった?
一時的にしかできない指のシワシワには何のメリットもないように思われますが、アメリカの神経科学者であるマーク・チャンギジー(Mark Changizi)氏は「人類進化の巧みさを示す比類なき例だ」と言います。
たとえば、足の指などは、プールやお風呂に浸からなくても、雨にぬれて湿った芝生の上を歩くだけで、十分シワシワになります。
チャンギジー氏は「手足の指がシワシワになるのは、単なる物理的な反応ではなく、進化の過程で、何らかのメリットがあって生じた可能性が高い」と指摘します。
理由は大きく分けて2つ。
1つは、指をシワシワにすることで、水を排出するための水路を作ること。
もう1つは、シワシワがあることで、指先の防滑性が高まり、滑り止めになることです。
英・ニューカッスル大学(Newcastle University)の研究チームは、2013年に、シワシワのある状態とない状態で、モノをつまむ実験を行いました(Biology letters, 2013)。
実験は、親指と人さし指のみを使い、容器内のぬれたガラス玉と魚釣り用の鉛を別の容器に移し替えるというものです。
その結果、指にシワシワのある状態の方が、モノを正確につまみ、はるかに速く移し変えることができました。
これと別に、指のシワシワは、タイヤの滑り止め構造に似ていると指摘されます。
タイヤが悪天候の中でも安定して走れるのは、タイヤの溝の部分が水を排出し、しっかりと路面をグリップできるからです。
これと同じ機能が、指のシワシワにもあると考えられます。
中には、指のシワシワの仕組みから、防滑性の高いシューズやタイヤの開発を進めている研究者もいるようです。
このように、指がシワシワになるのには、単なる物理的な作用以上のメリットがあると考えられます。
プールやお風呂に入った際は、ぜひシワシワの滑り止め効果を試して見てください。
参考文献
Why Do Fingers, Toes Prune Fast When Soaked in Water? Evolution May Have the Answer
提供元・ナゾロジー
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