「早生まれ」について、どんなイメージを持っているでしょうか。

早く学校が始まることで人生を1年得するイメージでしょうか?

逆に学校生活の開始が他の子より早まることで不利になるイメージでしょうか?

英国キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)の精神医学・心理学・神経科学研究所(IoPPN)の新しい研究は、この問題について「早生まれ」の子は、年長の子どもたちと比較して長期的に不利益を受ける可能性が高いと報告しています。

研究によると、早生まれの子は学業成績の低迷などから、後年の薬物乱用やうつ病につながる可能性が高くなるといいます。

このため研究者は、学校生活の開始時期について、柔軟性が必要だと訴えています。

研究の詳細は、科学雑誌『Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry(JAACAP)』に8月1日付で掲載されています。

目次

  1. 成長の差で不利になる「早生まれ」問題
  2. 大人になってから現れる「相対年齢効果」の長期的な不利益

成長の差で不利になる「早生まれ」問題

「早生まれ」とは、日本においては1月1日から4月1日に生まれた子どもたちのことを指しています。

日本では4月を境に年度を区切っているため、早生まれの子たちは、前年に生まれた子たちと同じ学年として学校生活を始めることになります。

日本の場合、小学校の入学時点ではみんな年齢は6歳で揃っていますが、その中には先月6歳になったばかりの子と、来月7歳になるという子が含まれるのです。

こうしたもっとも極端な例では、同じ学年なのに最大11カ月成長に差がついていることになります。

小学生にとって約1年の成長差は、精神の成熟度、体格、認知能力にかなり大きな違いを生むと予想できます。

これは学業、スポーツにおいて早生まれの子を不利に立たせる可能性があります。

この問題は「相対年齢効果」と呼ばれ、実際に見られる傾向なのかどうか多くの研究者が観察の対象としてきました。

「早生まれ」は後の人生で不利になる可能性が高くなる
(画像=子どもにとって1年の時間差は大きな影響を生む / Credit:canva、『ナゾロジー』より引用)

海外においても、同じ問題は存在しています。

英国では、日本と異なり学校年度の区切りは9月1日です。

そのため日本における「早生まれ」は英国の研究では「summer babies(サマーベイビー)」と呼ばれています。

英国キングス・カレッジ・ロンドンとスウェーデンのエレブルー大学の研究チームは、スウェーデン国民登録簿(Swedish National Registers)の30万人の個人データを利用して、「サマーベイビー」に見られる傾向を調査しました。

ちなみにスウェーデンの学校年度は1月1日が基準日なので、特に若い早生まれは11月から12月に生まれた子になります。

そしてこの調査の結果、「早生まれ(サマーベイビー)」だった子は、大人になってからうつ病や薬物乱用障害を発症する可能性が高くなるという傾向が明らかになったのです。

この原因について、研究者はいわゆる「サマーベイビー」は、社会的に成熟していない状態で学校生活を始めるため、他の仲間から孤立しがちになり、後に精神的な問題を引き起こす可能性が高くなると述べています。

学業やスポーツ面でも不利となり、進学などがうまく行かなくなる可能性もあります。

また、こうした同学年内の相対年齢の差は、年少の子に普通に見られる行動を、同学年の年長の子たちと比較することで、ADHD(注意欠陥多動性障害)と誤診してしまうリスクもあると専門家は警告します。

こうしたことが遠因となって、大人になったときにさまざまな障害を彼らに引き起こす可能性があるのです。

もちろん、これが全ての早生まれの人たちに該当するわけではありません。

そのため、あまりピンとこないと感じる人もいるでしょう。

しかし、「相対年齢効果」に関する問題は、この他にも多く世界で報告されていて、特にその悪影響は大人になってから現れるといいます。

大人になってから現れる「相対年齢効果」の長期的な不利益

「早生まれ」は後の人生で不利になる可能性が高くなる
(画像=相対年齢を考慮しないと子どもは周囲から孤立したり成績を低迷される原因になる / Credit:canva、『ナゾロジー』より引用)

研究では、相対年齢が若いことでうつ病のリスクが14%増加し、薬物乱用のリスクも14%、低学歴となるリスクは17%増加したと報告しています。

研究チームの1人、キングス・カレッジ・ロンドンのジョンア・クンツィ(Jonna Kuntsi)教授は「教室で最年少であることは、複雑な発達上の影響を及ぼし、子どもを学業の初期段階で不利な立場に置く可能性がある」と述べています。

また、最近行われたフィンランドの大規模な登録研究でも、相対年齢効果は特定の学習障害を引き起こすことが報告されています。

クンツィ教授は、読書や文字の学習、算数などの難易度について、子どもたちの相対的な年齢にもっと焦点を当てるべきだといいます。

こうした不利な状況で、孤立し落ちこぼれにされてしまった早生まれの子は、人生の後半で苦境に立たされる可能性があります。

これは何も海外だけで報告されている事実ではありません。

日本でも2015年に大阪大学が、若者の自殺率を比較した結果、早生まれの若者の自殺率が約30%高かったとする論文を米国科学誌「PLOS ONE」に発表しています。

「早生まれ」は後の人生で不利になる可能性が高くなる
(画像=大阪大学の報告した自殺率のグラフ。赤いラインの左側が早生まれの若者を示す。 / Credit:ResOU、『ナゾロジー』より引用)

全ての人に当てはまるわけではないとはいえ、早生まれの子を1年近く年長の子たちと同じクラスにすることは、彼らの人生において長期的に不利な影響を及ぼす可能性があることは確かなようです。

もしかしたら、早生まれでこうした内容に思い当たることがあるという人もいるかもしれません。

クンツィ教授は、デンマークでは就学年齢について柔軟な対応をしており、学校へ通う準備ができていない幼児には、遅らせて学校を始めさせる機会を用意しているため、こうした他の国で見られる「相対年齢効果」の負の問題が少なくなっている、と述べています。

強引に学年を区切るのではなく、長い人生の出発点となる就学年齢については、その子の特性を考慮してもっと柔軟な対応を取れるようにしなければならないのかもしれません。

ただ、1年待ってあげなかっただけで、その子どもの後の人生が暗いものになってしまうのだとしたら、それはとても残念なことです。


参考文献

Younger children in a school class at greater risk of long-term negative outcomes like low educational achievement and substance misuse(KCL)

元論文

The Combined Effects of Young Relative Age and Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder on Negative Long-Term Outcomes


提供元・ナゾロジー

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