目次

  1. 殺人事件か?沼から出てきた「トーロンマン」
  2. 自然が生んだ良質な「冷蔵庫」
  3. 「トーロンマン」は生贄に捧げられた?
殺人事件と間違われて…。2000年前のリアルすぎる遺体「トーロンマン」とは
(画像=Credit:smithsonianmag、『ナゾロジー』より引用)

Point
■1950年にデンマークで発見された「トーロンマン」という遺体は、驚くべき保存状態だった
■しかし実は、年代調査によると約2300年近くも前に生きていた人物であることが判明
■遺体は、当時神聖な場所であると考えられていた沼地で、神への生贄に付されたと考えられている

眠っているような遺体が、実は2300年も前に亡くなっていたなんて…。

体というのは、当然ながら死んでしまうと腐ってしまうもの。しかし、湿潤な状態に置かれていると、稀に脂肪分がロウソクの蝋のように変質して、長期間良好な状態が保たれることがあるんです。

実はこうした遺体は「湿地遺体」という名前で知られていて、気温の低い北欧の沼地を中心にいくつも見つかっています。なんでも、これまでに1850体以上も発見されているんだとか。

その中でも、屈指の良好な保存状態を持つのが「トーロンマン」です。彼はなぜこれほどまでに、綺麗な姿を保つことができたのでしょうか?

殺人事件か?沼から出てきた「トーロンマン」

1950年5月6日のことでした。舞台はデンマークの都市シルケボーから約12km西に向かったところにある、ビェルスコウ渓谷の沼地(ピート・ボグ)です。

そこへ、トーロンという小さな村からストーブ用に泥炭(ピート)を切り出すため、2人の兄弟がやってきました。その作業中に、一緒に来ていた奥さんの1人が、沼地に遺体が埋まっていることに気づいたのです。

それがあまりに新しく見えたため、起きたばかりの殺人事件だと思いこんで警察まで呼んだそうです。

殺人事件と間違われて…。2000年前のリアルすぎる遺体「トーロンマン」とは
(画像=Credit:ancient-origins、『ナゾロジー』より引用)

しかしその後の年代調査により、「トーロンマン」の死亡時期は今から2300年近くも前に遡ることが判明。だいぶ年老いては見えるのですが、親知らずの成長が見られたことから25歳からそれ以上であると特定されています。

実は若いんですね。それからここまで遺体の保存状態が良いのには、どうやら沼地に秘密があるようなんです。

自然が生んだ良質な「冷蔵庫」

沼地というのは、排水効果がなく水分量が豊富に保たれるので苔がよく育ちます。そして数千年をかけて「ミズゴケ」が沼地に堆積するようになりました。この「ミズゴケ」が実にいい仕事をするんですね。

「ミズゴケ」は雨水をよく吸うので、沼地をより豊潤に保つことができます。そして枯れると、大量の酸を放出し始めるのです。この酸がバクテリアといった微生物の繁殖を妨げ、遺体を守ることに一役買っていたとのこと。

殺人事件と間違われて…。2000年前のリアルすぎる遺体「トーロンマン」とは
(画像=Credit:wikipedia.org、『ナゾロジー』より引用)

さらに沼地はミネラル分を豊富に含む一方で、酸素はわずかしかありません。つまり遺体の酸化を防ぐことができるというわけですね。それからデンマークの低い気温も相まって、良質な防腐保存の環境が整っていたんです。

肌が生きているかのように艶っぽく保たれていたのはそのおかげでしょう。沼地さえあれば乾燥知らずのニベアいらず、まさに自然が生んだ高性能冷蔵庫と言えるでしょう。

「トーロンマン」は生贄に捧げられた?

X線スキャンによる遺体調査では、脳だけでなく内臓まで、ほとんど無傷のまま残されていました。しかし「トーロンマン」がなぜ沼地で死んでいたのかは大いに疑問です。

しかし現在では、「神への生贄に捧げられたのではないか」という説が最も有力となっています。

まず遺体には絞首に使われた縄がキツく巻きついていました。それから帽子とベルト以外には衣服を身につけておらず、沼に沈んでいたことから第三者が関与していると思われます。

しかし首の骨折のほか、目立った外相は見当たらず、遺体も乳児のように膝を抱え込むようにして横たわっていました。明らかに個人的な恨みで行なった殺人ではありませんね。

殺人事件と間違われて…。2000年前のリアルすぎる遺体「トーロンマン」とは
(画像=Credit:smithsonianmag、『ナゾロジー』より引用)

また沼地というのは、当時の人から神聖な場所であると考えられていた可能性が大いにあるのです。例えば、湿地帯では「ウィルオウィスプ」と呼ばれる、青白く発光する球体がよく目撃されます。いわゆる、外国版火の玉ですね。

これには沼地から噴き出したメタンガスに、何らかの原因で引火することで起こるというれっきとした科学的メカニズムがあります。しかし2300年前の人たちは当然そんな詳しい仕組みを知らないでしょうから、「沼地に神の使いが現れた」とか「沼地は聖なる場所だ」と捉えてもおかしくありません。

そのことから、作物の豊穣を祈るための儀式として沼地を選んだのでしょう。

「トーロンマン」は現在、デンマークのシルケボー博物館にて展示されていますが、オリジナル部分は頭部だけで、あとはレプリカなんだそう。というのも、1950年当時に遺体の全身を保存する技術がなく、頭部だけを切り離していたのです。

そのほかは残念ながら腐敗の侵食が進み消失してしまいました。やはり2000年ぶりの外気が肌に合わなかったんでしょうか…。

提供元・ナゾロジー

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