宇宙深部の観測で、天文学者は見たことのない奇妙な天体を発見しました。

オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)のASKAP(アスカップ)電波望遠鏡を使い、ウエスタンシドニー大学(WSU)などの研究チームが発見したのは、奇妙な形で銀河を取り巻く電子の雲でした。

それはまるで「2人の幽霊が踊っているような姿」をしており、2つの銀河の超大質量ブラックホールに撹乱された電子ジェットによるものとのこと。

しかし、未だにどうやって形成されたか不明な部分もあり、研究者注意深く観測を続けています。

この研究論文は、オーストラリア天文学会の科学雑誌『Publications of the Astronomical Society of Australia』への掲載が決まっていて、現在はプレプリントサーバー「arXiv」にて閲覧が可能です。

目次

  1. 2人の踊る幽霊
  2. 奇妙なジェットの流れ

2人の踊る幽霊

ナゾの天体「踊る幽霊」の正体に天文学者が困惑する
ASKAPのアンテナの1つ。ASKAPは直径12mの衛星アンテナ36個で構成されている。 / Credit:CSIRO(画像=『ナゾロジー』より引用)

今回の天体は、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)の新しい電波望遠鏡ASKAP(アスカップ)を使用した、「全天連続電波深探査EMU」というプロジェクトから発見されました。

EMUでは宇宙の進化地図を作るために夜空を広くスキャンしています。

ナゾの天体「踊る幽霊」の正体に天文学者が困惑する
EMUパイロットサーベイによって作成された画像。左下の丸いのが満月のサイズ。 / Credit:Ray Norris from EMU data(画像=『ナゾロジー』より引用)

このデータの中から見つかったのが、2人の幽霊が踊っているかのような奇妙な形の電子の雲でした。

研究者はこうしたものを見たことがなかったため、最初はそれが何であるのかわからなかったと話します。

しかし数週間後、その領域で地球から約10億光年離れた場所に2つの電波銀河(明るい電波を放つ活動銀河)が映っていることがわかりました。

そしてその銀河の中心には、超大質量ブラックホールがあり、2つの銀河の間には複雑に曲げられた電子のジェットが噴出していたのです。

奇妙なジェットの流れ

ナゾの天体「踊る幽霊」の正体に天文学者が困惑する
研究者たちの考える2つの銀河が踊る幽霊を形成する電子の流れ / Credit: Jayanne English and Ray Norris using data from EMU and the Dark Energy Survey(画像=『ナゾロジー』より引用)

この図は研究者たちが考える、2つの銀河が踊る幽霊を形成する電子の流れです。

1の矢印は銀河1(図のGalaxy1)から流れ出る電子の雲の流れで、2の矢印が銀河2(図のGalaxy2)から吹き出す電子の雲の流れです。

しかし、研究者たちは2つの銀河間を流れる風が、なぜこのように複雑に絡んだ状態になるのか、まだ説明できません。

そして、特に研究者を悩ませるのが、図で3と記された矢印の流れです。

なんだか、なんの脈絡もない位置から電子の雲が筋のようになって流れています。

このフィラメントを作る理由が、研究者たちにはさっぱりわからないといいます。

またASKAPはこれまで製造された中でも、もっとも感度の高い電波望遠鏡の1つであり、これまで当たり前に観測されていた場所からも新しい天体を発見しています。

ナゾの天体「踊る幽霊」の正体に天文学者が困惑する
ほぼ100万光年の直径を持つ奇妙な電波の輪。研究者はこれをORCと呼んでいる。 / Credit: Jayanne English from data from EMU and the Dark Energy Survey(画像=『ナゾロジー』より引用)

こちらも青く電波の光が映っていますが、直径は100万光年近くあるといいます。

これはASKAPでなければ捉えられない非常にかすかな電波の光です。

この電波放射は、遠方の銀河を取り巻くように見えていますが、これが何であるのか研究者たちはまだ突き止められていません。

そのため、研究者たちはこれを「Odd Radio Circles:ORC (奇妙な電波の輪)」と呼んでいます。

遠い宇宙を見つめてきた天文学者でも、まだ良くわからない未知の発見は、新しい望遠鏡を使うことで次々と発見されています。

下のページリンクは、今回紹介したEMUプロジェクトのサーベイ(掃天観測)データにつながっています。

EMU 940 MHz Pilot Survey

これは非常に広い夜空を映しているため、どんどん拡大していくと、天文学者も見落としている何かが映っているかもしれません。

研究者がそんな風に語るほど、まだまだ宇宙には謎が多いようです。


参考文献

‘Dancing ghosts’: a new, deeper scan of the sky throws up surprises for astronomers(CSIRO scope)

Dancing ghosts point to new discoveries in the cosmos(Western Sydney University)

‘Dancing ghosts’: a new, deeper scan of the sky throws up surprises for astronomers(THE CONVERSATION)

元論文

The Evolutionary Map of the Universe Pilot Survey


提供元・ナゾロジー

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