世の中の多くのものは右利きを前提に作られています。少し前の教育では左利きの子がいると、わざわざ右利きに矯正することもよくありました。
コナンくんも、犯人は左利きだということを根拠に追い詰めたりします。
左利きは決して社会的に有利になわけでも快適なわけでもありません。
ではなぜ、世の中には右利き、左利き、両利きというような利き手が異なる人達がいるのでしょうか? そしてどうしてその好みは多くが右に偏るのでしょうか?
これは何十年もの間、生物学者たちを悩ませていた問題です。
科学雑誌『Nature Human Behaviour』に9月28日に掲載された新たな研究は、170万人を超える遺伝子サンプルを用いてゲノムワイド関連解析を行い、左利きに関連した41の遺伝的変異を特定したと報告しています。
左利きはやはり遺伝要因で決まる問題だったのでしょうか?
170万人を超えるゲノムワイド関連解析
アメリカ、イギリス、オーストラリアでは人口の約10%が左利きだと言われています。
しかし、左利きであるということには生物学的に有利な理由が見当たりません。
これまでの研究から、利き手は生まれる以前に脳の構造や、出生前のホルモンの影響などで決定されていると疑われていますが、その明確な要因は明らかとなっていません。
そこで新たな研究は、ゲノムワイド関連解析という方法を使って遺伝的な変化からその要因を探ろうと試みています。
ゲノムワイド関連解析とは、大量のゲノムを調査して、特定の形質に結びつく小さなDNAの変化を検出する統計的な手法です。
今回の研究では、複数の医療機関のメガデータベースから正確には176万6671人分のゲノムデータを作成して分析を行いました。
その結果、左利きに関連すると考えられる遺伝的変化が41発見されたのです。また7つの遺伝的変化が両利きに関連していることもわかりましたが、両者の間に相関は見つからなかったといいます。
遺伝子が原因で左利きが決まるのか?
今回発見された遺伝的変化は、微小管遺伝子や脳の形態に関係していることがわかりました。
微小管とは繊維状のタンパク質で細胞骨格の1つとされるものです。これはニューロンの発達や、神経変性などにも重要な役割を果たしています。
こうした変化は発達の初期に影響を与えている可能性があります。
しかし、残念ながら今回見つかった遺伝的変異が利き手の違いを決める、決定的な要因であるとは言えないようです。
発見された要因は、利き手の決定に12%程度しか関係していないという分析結果が出ています。
研究者の1人クイーンズランド大学の遺伝学者デビッド・エヴァンス氏は、「解析の結果、遺伝的な要因で利き手の違いを説明できるのはわずかなものでした。これは環境的な要因がより重要な役割を果たしている可能性が高いことを示唆しています」と語っています。
この割合は両利きの人も同様でした。両手を均等に使いこなす能力は遺伝的な要因よりも、手を怪我したり、スポーツや楽器演奏の練習など、後天的な要因が大きな役割を果たしています。
結局左利きになるのも、そうした後天的な環境が遺伝よりも大きく関連している可能性は高そうです。
今回の研究は人の利き手を説明する最終的な判断材料にはならないようです。しかし、利き手の謎に迫る研究において、この大規模な調査の結果は重要な手がかりの1つになるでしょう。
左利きの謎は、まだまだ生物学者たちを悩ませる問題として居座ることになりそうです。
参考文献
sciencealert
提供元・ナゾロジー
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