デイリーユースできる価格帯から、語りどころのある“名作モデル”を紹介していく連載企画。第3回は、世界初のエレクトリックウオッチとして知られるベンチュラに注目。
》機構とデザインで衝撃を与えた不朽の傑作
第2次世界大戦中に芽生えた多くのエレクトロニクス技術は、戦後、民間でも転用され、その流れは時計界にも波及した。この分野において市場をリードしたのはアメリカの時計メーカーだ。1940年代後半にはエルジンが、50年代に入ってハミルトンもエレクトリックウオッチの研究開発に着手。57年に世界初のエレクトリックウオッチとしてハミルトンから発表されたのが“ベンチュラ”だ。
このエレクトリックウオッチの最大の特徴は、シャツのボタンほどの大きさの電池1個を動力源としていること。今でこそ電池を動力にして動く時計は当たり前となっているが、シャツのボタンほどの大きさの電池1個を動力源としながら、従来の機械式時計とは比べものにならない1年以上という駆動時間を実現したエレクトリックウオッチは革新的な新製品であった(当時の主流はゼンマイを動力にした機械式時計)。
その最初期のモデルには、開発車の名にちなんだ“ヴァンホーン”と、アシメトリーなケースを持った“ベンチュラ”が発表されたが、特に後者はその奇抜なデザインでも大きな話題を集めた。デザインを手がけたのは、50年代にキャデラックのデザインなどを手がけたアメリカンインダストリアルデザインの鬼才、リチャード・アービブ。
既存の概念を覆す左右非対称となった三角形のゴールドケースとブラック文字盤の組み合わせ。さらにドットと直線で構成されたインデックスに、オシロスコープをモチーフにしたギザギザラインが入った文字盤など、一度見れば忘れられない、強いインパクトを放ったベンチュラは瞬く間に人気を獲得。エルヴィス・プレスリーのほか、ストレイ・キャッツのブライアン・セッツァーなど、著名人にも数多くの愛用者がいたことで知られている。
熱狂的なファンを数多く獲得したベンチュラだったが、一方で技術的な未解決な問題もあったようで、製造期間は7年と比較的短かった。ただ機構とデザインにおいて時計史に大きな衝撃をもたらした時計であったことは間違いなく、アメリカ産業の金字塔のひとつとして、いまもスミソニアン博物館に収蔵されている。
その後、ベンチュラが再びハミルトンのコレクションに名を連ねるのは88年。現在は機械式やクォーツ式、さらに様々なデザインバリーションが展開され、ブランドを象徴する人気コレクションとして定着している。
》エルヴィス・プレスリーも愛用した歴史的名作
1957年の発売後、すぐに1万2000個以上の驚異的なセールスを記録したとされるベンチュラ。数多くの著名人が愛用したことで知られるが、なかでも有名なのが“エルヴィス・プレスリー”だ。1961年に映画『ブルーハワイ』でベンチュラを装着したエルヴィスは、公私を通じて愛用したといわれ、後にベンチュラは“エルヴィス・ウォッチ”の通称でも広く知られることになった。
57年にハミルトンから発表されたオリジナルのエレクトリックウオッチ。三角形フォルムのベンチュラが特に有名だが、ケース12時方向を変形させたスペクトラと名付けられたモデルなども発表されていた。いずれも同じムーヴメント、Cal.500を搭載。この500では、動力源はゼンマイから電池へと置き換えられているが、従来の機械式と同じようにテンプやヒゲゼンマイを使用し、時間を刻んでいた。参考商品
HAMILTON(ハミルトン)
ベンチュラ
インダストリアル・デザインの鬼才リチャード・アービブの考案による盾をモチーフにしたという三角形ケース、文字盤の意匠など、1957年に世界初のエレクトリックウオッチ(モーターを動力として動く)として発売されたモデルから基本デザインを継承する定番モデル。誕生から64年を経た現在でも、その唯一無二のデザインは古さを感じさせない。
変形ラグの内側にストラップを設置したデザインのため意外に着け心地が良いのも特徴のひとつ。デザインの魅力だけでなく、装着感が考慮されている点も、長く愛されてきた理由といえるだろう。
HAMILTON(ハミルトン)
ベンチュラ Elvis80 スケルトン オート
初代ベンチュラの熱狂的なファンであったエルヴィス・プレスリーの生誕80周年を記念して製作されたベンチュラ エルヴィス80の最新モデル。アイコンである三角形のケース、オリジナルモデルにもあしらわれていた電気を想起させるジグザグ模様を継承しつつ、モダンなスケルトンダイアルに再解釈している。ムーヴメントは標準持続時間80時間を誇るCal.H-10-Sを搭載。
【問い合わせ先】
ハミルトン/スウォッチ グループ ジャパン
TEL:03-6254-7371
提供元・Watch LIFE NEWS
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