目次

  1. 親密さと孤独感
  2. 周りに人がたくさんいても私は1人
大勢の人がいても孤独を感じる「ぼっち脳」のメカニズム
(画像=『ナゾロジー』より 引用)

point

  • 親密さや孤独を感じるときの脳活動について調査が行われた
  • 人は親密な関係の人を見たとき、自分のことを考えるときと同じ領域が活発になった
  • 社会性が低く、孤独を感じている人ほど、自分と他人で脳活動の差が顕著に現れる

コロナの影響で、あまり外出できず人と会う機会が減って孤独を感じるようになったという人は多いのではないでしょうか。

私たちは他人に対して、親密さを感じることもあれば、大勢の人の中にいても孤独感を覚えることもあります。

こうした親密さ、孤独といった感情が脳のどういった働きから生じているかは、実はまだよくわかっていません。

新たな研究は、そんな孤独感の正体に迫る調査報告を行っています。

この研究は小規模な内容ながら、コロナの影響で世界中の人が社会的距離を置いている現在、タイムリーな洞察を含んでいるとして注目を集めています。

親密さと孤独感

大勢の人がいても孤独を感じる「ぼっち脳」のメカニズム
(画像=Credit:depositphotos、『ナゾロジー』より 引用)

新しい研究によると、親密さと孤独感の感情を分ける要因は、私たちの脳の根本的な配線の違いが関連していることを明らかにしています。

実験の参加者は、18歳から47歳までの計50人の大学生及びそのコミュニティメンバーです。

実験では、参加者が16のターゲット(自分、5人の親しい人、5人の知人、および5人の有名人)について考えるときの脳活動を、fMRI(機能的核磁気共鳴画像法)によってスキャンしました。

その結果、親しい人のことを考えるとき、参加者の脳は自分自身について考えるときと似た状態になりました。

しかし、あまり親しいと感じていない相手や、直接接触を持ったことのない有名人などを考える場合は、まったく異なる領域が活発になりました。

大勢の人がいても孤独を感じる「ぼっち脳」のメカニズム
(画像=Credit: Courtney and Meyer, JNeurosci 2020、『ナゾロジー』より 引用)

今回の研究で注目されたのは、脳の内側前頭前皮質 (MPFC) です。ここは、私たちが抱く親密さに基づいて、社会的な繋がりのマップを作ります。

孤独を感じる人は、自分と他人に距離を感じる傾向があり、それはMPFCの活動に反映されます。

実験の結果は、社会的な親密さが、自己と他者を考える際に似たような脳活動を行うことを示唆しています。

そして、この傾向は、社会性のある被験者ほど顕著に現れ、社会性の低い孤独な被験者ほど、この傾向は消え、自己と他者の脳活動パターンの差が大きくなっていきました。

それだけではなく、親しい人に対するパターンさえ、知人や有名人など、あまり親しい関係でない人たちのパターンに近づいていき、自分以外に関する脳活動は、全て1つにぼやけてしまったのです。

周りに人がたくさんいても私は1人

大勢の人がいても孤独を感じる「ぼっち脳」のメカニズム
(画像=Credit:pixabay、『ナゾロジー』より 引用)

今回の研究者の1人、Meyer氏は結果を次のように説明しています。

「私たちの脳内には、自分のことを考えると輝き出す星座のようなものがあります。そして、友人や親族など、親しい人について考えると、同じ星座が輝き出すのです。

しかし、孤独な人は自分のことを考えるときと他人のことを考えるときでは、まったく異なる星座がアクティブになります。

それはまるで、自分と他人が切り離されているかのようです」

孤独を感じる多くの人が、「大勢の人の中にいても、自分は1人なんだ」という感覚を口にしますが、今回の結果は、そうした発言の意味について説明することができそうです。

この研究は、被検対象がまだ少数で、脳活動の自己と他者のギャップがどの様に起こるのかというメカニズムについては、明らかにできていません。

つまり今回の結果が、孤独の感情から生じるものなのか、それともこうした脳活動の結果として孤独感が生じているのかは、明確ではなく、それは今後の研究で明らかにしていく課題になります。

社会との関わりが減るほど、他人と自分を分けて考えるようになり、孤独を感じてしまう、という流れが人間の脳にはあるようです。

社会から孤立した孤独な人ほど、身勝手な行動が増えてしまうというのも、この辺りが原因なのでしょう。

こうした研究が進めば、孤独を科学的に解消することもできるようになるかもしれません。

コロナウィルスによって社会的な距離を取ることが求められる時代、こうした研究の発展も重要になってくるでしょう。

この研究は、米国スタンフォード大学及びダートマス大学の研究者Courtney氏とMeyer氏の連名で発表され、論文は神経科学に関する査読付き学術雑誌『Journal of Neuroscience』に6月15日付で掲載されています。


Self-other representation in the social brain reflects social connection


reference: sciencealert,techexplorist/ written by KAIN

提供元・ナゾロジー

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