自分が他の人より優れていると考え、自己愛が強く、自身に溢れている人をナルシストと呼びます。
しかし、全てのナルシシズムの傾向を持つ人が同じような性格でないことがわかってきました。
イギリスのエセックス大学などの研究チームは、2つのナルシストのタイプ、尊大型と脆弱型を調査。
脆弱型は尊大型と同様に、他人の尊敬と称賛を切望していながら、社会的スキルは低く失敗を最小化しようとして、内気で精神的に不安定になっていると報告しています。
案外この分類に当てはまりそうな人は、世の中に多いかもしれません。
この研究の詳細は、科学雑誌『Personality and Social Psychology Bulletin』に6月11日に掲載されています。
一般的なナルシストのイメージ
アニメや漫画のキャラ付けとしてよく見かけるナルシストですが、そこまで極端ではないにしても、これは心理学における人格特性の1つで、過度に自己愛の強い人を指します。
正確にはナルシシズムという傾向を持つ人のことを指し、ナルシシズムの語源は、ギリシャ神話に登場する美少年の狩人ナルキッソスです。
ナルキッソスは、ニンフのエコーを振ったことで自分に恋をする呪いをかけられてしまい、水に映る自分の顔にキスしようとして溺れて死んでしまいます。
ナルシストを最初に精神障害として取り入れたのは、19世紀後半のイギリスの医師ハヴロック・エリスです。
その後、ジークムント・フロイトはナルシシズムを私たち全員が生まれつきある程度持っている性質であり、子どもの発達においては正常なものであると説明しました。
ただ、それは成長するにつれて薄れていき、徐々に他人への愛へ移行するため、大人になってもその性質を保ち続けると障害になる可能性があると主張しました。
現代心理学の理解では、ナルシストは自己陶酔的な人もいれば、そうでない人もいますが、基本的に自己評価が高く、他人への共感性は欠如しているとされます。
ただ、ナルシストはそれだけではなく、いくつかのタイプがあるということがわかってきました。
尊大なナルシストと脆弱なナルシスト
2010年に報告された研究では、それを尊大型(Grandiose )と、脆弱型(Vulnerable)として特定しています。
尊大型は高い自尊心を持ち、大胆で断定的であり、自信に満ちており、自分の生活に幸せを感じている傾向があります。
アニメや漫画などのキャラ付けとしてよく見かけるのはこちらのタイプでしょう。
一方、脆弱型のナルシストは内気で、ノイローゼ気味であり不安定です。
彼らは自尊心が低く、過敏で、不安や落ち込みを感じやすい傾向にあります。
ただ、どちらのタイプであっても共通点があります。
それはどちらも利己的で、特別な扱いを受ける資格が自分にあると感じており、他者とは敵対的な方法で関係を持ちます。
ではこの2種類のナルシストは、社会的な状況において、どのように異なってくるのでしょうか?
彼らには社会的な動機や認識になにか違いがあるかもしれません。
今回の研究は、そんな2種類のナルシストの願望について調査を行ったのです。
2つのナルシストの異なる欲望
調査されたのは、特に「社会的地位」と「社会的包摂(しゃかいてきほうせつ)」を達成したいと感じているか?、またその達成に成功したと感じているか? という点についてです。
「社会的地位(ステータス)」とは、他人から尊敬され、称賛されることを指します。
それは目立つことでもあり、社会的階層の中で重要人物と見られていることも含みます。
「社会的包摂(インクルージョン)」とは、他人に好かれ、受け入れられることを指します。
社会的地位とは対照的に、こちらは社会的コミュニティの一部として他の人とうまく調和することを表すのです。
これは似ているようで、大きく異なった社会的立ち位置を示しています。
たとえば、会社の重役や政治家などは、社会的地位を持つ人ですが、人々から好かれているかというとそうでもない人が多いでしょう。
一方、下町のおかみさんみたいなキャラクターは、社会的地位はないでしょうが、人々からは好かれているというタイプになるでしょう。
研究では676人の成人を募集して、彼らの尊大型自己愛レベルと、脆弱型自己愛レベルを評価し、また社会的地位と社会的包摂をどの程度求めているか、その目標を達成したとどの程度感じているかを評価しました。
その結果、両方のナルシストが社会的地位を強く望んでいることがわかりました。
これはそれほど驚く結果ではありませんが、興味深いことに尊大型のナルシストはその達成に成功したと感じているのに対して、脆弱型のナルシストは自分にふさわしい社会的地位は得られなかったと感じていたのです。
また尊大型のナルシストは、社会的包摂を達成したとは感じていませんでしたが、特にそれを望んでもいませんでした。
一方、脆弱型のナルシストは、同じく社会的包摂を達成したとは感じていませんでしたが、それを強く望んでいたのです。
つまり尊大型のナルシストは自分の社会的目標は達成されていると考えていて、脆弱型のナルシストは何も社会的目標を達成できていないと考えていたのです。
どちらのタイプのナルシストも、他人の尊敬と賞賛を切望しています。
しかし、両者の社会でにおける状況は大きく異なっています(もしくは本人がそう認識しています)。
これは彼らが、社会的な状況においてどう振る舞うかにも違いをもたらしている可能性があります。
尊大型は困った性格かもしれませんが、社会的には有能です。彼らは社会の中では支配的で魅力的である可能性が高く、一方、脆弱型のナルシストは社会的スキルが低く、あまり人とうまく接することができない可能性があります。
このため、尊大型は、成功を最大化することを目指し、目標を追求することに率直で断定的ですが、脆弱型は失敗を最小化することを求めていて、臆病で防御的になります。
尊大型ナルシストは対人関係の舞台でスターであり、意気揚々とスポットラトを浴びているかもしれませんが、脆弱型のナルシストは観客の中に潜んで、憤慨しながらそれを傍観しているのかもしれません。
参考文献
There are 2 types of narcissists. Here’s what makes each tick.(livescience)
元論文
Desperately Seeking Status: How Desires for, and Perceived Attainment of, Status and Inclusion Relate to Grandiose and Vulnerable Narcissism
提供元・ナゾロジー
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