冬季オリンピック競技の1つとして知られている「スキージャンプ」は、スキー板のみで100mほどの高さのジャンプ台から飛び出し、飛距離を競います。
しかし人は2~3mの高さから飛び降りただけで骨折することがあります。
ではなぜスキージャンパーたちは、100mもの高さからジャンプしても大怪我しないのでしょうか?
インド・パンジャブ大学(Punjabi University)に所属する理学士アシシ・ティワリ氏が、スキージャンパーが安全に着地できる理由を解説しています。
力積と衝撃
オリンピックを含め、スキージャンプの国際大会のほとんどは、高度90mのノーマルヒルと120mのラージヒルで行われます。
同じ高さのビルから人が飛び降りた場合、確実に命を落とすでしょう。
では、スキージャンプとこのような落下事故の違いは何でしょうか?
それは「力積」です。
力積とは、物体に与える「衝撃の強さ」を表す量であり、物体の「運動量の変化率」として定義されます。
簡単に言うと、物体の運動量の変化の速さや遅さを表しているのです。
物体の速度が急に変化すればするほど、力積つまり衝撃の強さも大きくなります。
例えば、ビルから飛び降りた人は地面にぶつかったときに運動量が急激に変化します。
これにより体には大きな衝撃が加わってしまい、大怪我してしまうのです。
スキージャンプの着地斜面が力積を小さくする
次にスキージャンプの力積を考えてみましょう。
数々の競技映像から分かるとおり、スキージャンパーたちは着地時に急に止まろうとしません。
地面の方向にも前方にも、徐々に速度を落としています。
これはつまり、ゆっくりと運動量が変化しているのであり、その分ジャンパーに加わる衝撃が小さいこと意味しています。
そしてこれを可能にしているのが、競技場の形状です。
スキージャンプの着地点は、平らではなく斜面です。
ジャンパーたちが滑空しながら降りていく角度と同じような角度になっているのです。
これによりジャンパーは徐々に速度を落として衝撃を緩和できます。
とはいえ、計算された斜面構造だけで安全に着地できるわけではありません。
スキージャンパーたちの技術の結晶
一度もスキージャンプをしたことのない人が、競技場を利用するなら確実に大怪我します。
なぜなら、スキージャンパーの技術があってこそ、安全な着地が成り立つからです。
スキージャンパーたちをよく観察すると、降下時に岩が落下するように落ちるのではなく、滑空するするような姿勢を取っていると分かります。
この姿勢が非常に重要であり、わずかな変化が飛距離と着地の結果に関わってきます。
さらにスキー板を正しい角度に保ったまま着地することも重要です。
空中の姿勢、滞空時間、着地場所、着地時のバランスなど、どれか1つの要素でも失敗してしまうなら、力積が大きくなり大怪我を負ってしまうでしょう。
実際、スキージャンプを習い始めた人たちは、足や腕、首の骨を折ることがよくあります。
トレーニングで怪我をしたことのないスキージャンパーはいない、と言えるほどです。
さて、スキージャンプで大怪我しないのはなぜだったでしょうか?
それは力積を小さくするためのさまざまな工夫のおかげでした。
スキージャンプ競技場の構造、そして何年もの練習によって培われてきたジャンパーの技術が、運動量の変化をとても小さくしていたのです。
参考文献 How Are Ski Jumpers Able To Jump From Such Great Heights?
提供元・ナゾロジー
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