「マインクラフト」はレゴのようにブロックを配置して、建物やオブジェを作りそこで冒険できる極めて自由度の高い人気ゲームです。

そしてこのゲームはただブロック遊びをするだけでなく、コミュニティを作って大勢の人と交流して遊ぶこともできます。

さらにこのオンラインゲームは、何千人もの自閉症の子どもたちにとっても社会的スキルを学ぶ重要な場として活躍しているのです。

社会とのつながりをうまく保てない子どもたちを救う「マインクラフト」は、彼らに対しどのように機能しているのでしょうか?

このテーマは、カリフォルニア大学アーバイン校(UCI)のケイト・リングランド(Kate Ringland)氏が、2016年に開かれた『Human Factors in Computing conference』などの学会で発表されています。

目次

  1. 建築ゲーム「マインクラフト」の魅力
  2. 自閉症の子どもたちと響き合う「マインクラフト」
  3. ゲームがもたらす良い影響

建築ゲーム「マインクラフト」の魅力

自閉症の子どもたちを救う「マインクラフト」の世界、ゲームがもたらす良い影響
(画像=自由度の高いゲーム「マインクラフト」 / Credit:pixabay、『ナゾロジー』より 引用)

「マインクラフト」。このゲームについては説明は不要だという人も多いでしょう。

このゲームでは、ブロックを積み上げて部屋や家、さらに大きな建築物やマップを作っていくことが可能で、さらにそこを舞台にして冒険することもできます。

割と何でもできてしまう自由度の高いゲームです。

そして、そうした自由度の高さ、創造性を発揮できるゲームデザインがある子どもたちを救う要因となりました。

カナダのスチュアート・ダンカン氏は、自身が軽度発達障害を持っており、自閉症の息子を育てていました。

そんな彼が息子とともにゲーム「マインクラフト」にハマったのです。

自閉症の子どもたちは、人とのコミュニケーションに困難を抱えていますが、知能が低いというわけではなく、また驚くほどの創造性を発揮する場面も多くあります。

そんな彼らにマインクラフトはぴったりなゲームだったのです。

ダンカン氏は、同じように自閉症の子どもを育てる親たちから、子どもたちがマインクラフトに夢中になっているという話を聞きました。

ただ、彼らはゲームを愛しているにも関わらず、多くの場合、他のプレイヤーたちからいじめられていたのです。

ダンカン氏は自身がカナダでウェブ開発の業務に携わっていた経験から、2013年にこうした子どもたちのためのマインクラフトの専用サーバー「Autcraft(オートクラフト)」を立ち上げました。

当初、彼はこの招待制サーバーには、10人から20人くらいが集まればいいだろうと考えていました。

ところが、驚いたことに最初の数日で参加者数は数百人に達したのです。

自閉症の子どもたちと響き合う「マインクラフト」

「Autcraft」立ち上げからわずか3年で、このコミュニティのメンバーは約7000人に膨れ上がりました。

このコミュニティには、今やさまざま活動をサポートする管理者チームも存在し、ダンカン氏自身、このサーバーの運営がフルタイムの仕事となりました。

子どもたちにとって、マインクラフトは現実のプレッシャーを取り除き、本当の自分になれる場所となっていたのです。

そして、このサーバーの存在は、カリフォルニア大学アーバイン校の研究者ケイト・リングランド氏の目に留まります。

彼女は60時間近くをかけて、この仮想世界に入り込み、子どもたちがどのように遊んでいるのか、どんな会話をしているのかを観察しました。

そして、「Autcraft」が単なるオンラインコミュニティではなく、自閉症の子どもたちが社会性を身につけるツールとして役立っているのだと理解したのです。

彼女は、この研究内容を、後にカリフォルニア州サンノゼで開催された「Human Factors in Computing conference」で発表しました。

自閉症の子どもたちを救う「マインクラフト」の世界、ゲームがもたらす良い影響
(画像=自閉症の子は社会にある曖昧なルールを理解できず苦しんでいる / Credit:depositphotos、『ナゾロジー』より 引用)

自閉症の子どもたちは、社会の曖昧なルールを理解したり、他人の視線の意味を理解することができません。

しかし、ゲームの世界では相手の表情や視線を気にする必要はありません。

特にマインクラフトは作るという行為に特化している面があります。

何かを創作するという行為が、他者へ向けた表現やコミュニケーションとして機能するのです。

そうした環境が、自閉症の子どもたちとすこぶる相性がよかったのでしょう。

英国のニュースメディア「The Guardian」紙でゲーム記事の編集者を務めるキース・スチュアート氏も、自閉症の息子がおり、マインクラフトに救われた経験を持っています。

彼は、個人的なことですが、と前置きして息子とのマインクラフトの体験について記事を執筆しています。

「ほとんどのゲームにはミッションや目的があり、プレイヤーを決まった方向へ向かわせます。

マインクラフトには、たくさんのツールと広い世界が用意されていて、自分のやりたいことができます。

ザック(キース氏の息子)が風景を見て回ったり、羊を狩ったり、穴を彫りたいと思えば、それは全て可能なのです。

彼は自分自身を自由に表現することができます。

ツールはありますが、それはとても明確で、変わることはありません。

開放感と明確なルールという強力な組み合わせは、間違いなく息子に魅力的です」

ゲームがもたらす良い影響

多くの親は、ゲームが子どもにもたらす悪影響を心配していて、どのように管理するかに悩んでいることが多いでしょう。

しかし、キース氏は「悪影響を与えるどころか、新しいコミュニケーションの機会をゲームは与えてくれている」と話します。

「マインクラフトについてザックと話したことで、私は彼が何を好み、何になりたいのか、彼について多くのことを学ぶことができました」

子どもと一緒にハマっている親が多いことも、マインクラフトの重要な魅力の1つかもしれません。

自閉症の子どもたちを救う「マインクラフト」の世界、ゲームがもたらす良い影響
(画像=マインクラフトを介したコミュニケーションで救われている親子もいる / Credit:pixabay、『ナゾロジー』より 引用)

研究者のリングランド氏は、ここで交わされる子どもたちの会話内容にも着目しました。

その多くはゲーム内での喜びについてや、現実世界での問題に対する不安や悲しみ、そして多くの反省だったといいます。

ゲームの中で自閉症の子どもたちは、自分の感情を吐露し、自由に表現できていたのです。

これはマインクラフトが社会的行動の多くをサポートしていることの現れだといいます。

もちろん「Autcraft」はルールに守られた優しい世界であり、他のプレイヤーに嫌がらせをしたり、所有物を破壊したりすると、BAN(立入禁止)されてしまいます。(ただし、幼い子どもにはもう少し寛容なルールが敷かれています)

けれど、そんな「Autcraft」のようなコミュニティは、自閉症の子に対して、社会への不安を感じずに、より積極的に行動しようとするための良い第一歩になっているのだろう、とカリフォルニア大学ロサンゼルス校で自閉症の若年成人に人間関係の構築方法を教えているエリザベス・ローガソン氏は述べています。

ただ、彼女はマインクラフトがこうしたスキルを身につける唯一の方法ではない、という点については注意しています。

自閉症の子どもたちを救う「マインクラフト」の世界、ゲームがもたらす良い影響
(画像=マインクラフトの夜明け / Credit:pixabay、『ナゾロジー』より 引用)

創造性を自由に発揮でき、社会的不安を感じさせないマインクラフトの世界は、社会との繋がりに困難を抱える自閉症の子どもたちに良い影響を与えています。

これは単にいい話ですね、というだけでなくゲームのあり方について考えさせる重要な事例かもしれません。

単にゲームの悪影響についてだけを不安視する声もよく聞かれますが、仮想世界には社会との関係に困難を抱える人々を救う重要な要素が含まれていることも、見逃してはならない事実でしょう。

参考文献
How Minecraft is helping children with autism make new friends(newscientist)
Minecraft at 33 million users – a personal story(The Guardian)

元論文
“Will I always be not social?”: Re-Conceptualizing Sociality in the Context of a Minecraft Community for Autism

提供元・ナゾロジー

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