黒板に爪を立てて引っかく音は、多くの人をゾッとさせます。
思わず耳を塞ぎ、すぐにその音を止めるか、その場から逃げ去りたくなるはずです。
ではなぜ、黒板を引っかく音はこれほどまでに不快なのでしょうか?
インド・ソフィア女子大学(Sophia College for Women)に所属する神経科学者シュレヤシ・チャテジー氏がその理由を生物学的に解説しています。
黒板を引っかく音は「感情の中枢」を活性化させる
2012年に行われた調査では、人々に「嫌な音」のランク付けをしてもらいました。
その結果、「ガラスにナイフ・フォークを当てる音」「黒板を釘で引っかく音」「悲鳴」が上位にランクインしました。
これらの音の共通点は「音程」にあります。
人間が聞くことのできる音の周波数は20~2万Hzであり、上記の音はどれも2000~5000Hzの間にあるのです。
そして私たちの耳は、この範囲の音に最も敏感に反応するようです。
またこの研究の参加者たちは、これら嫌な音を聞きながら、fMRIで脳活動をリアルタイムで測定しました。
その結果、黒板を引っかく音やガラスを削る音が、視覚野と扁桃体(へんとうたい)という2つの脳領域の活動を高めると判明。
扁桃体は、脳の「感情の中枢」と呼ばれており、特に不安や恐怖を感じたときに活動することで知られています。
例えば、私たちが部屋の中で大きなクモを発見すると、すぐさま部屋から飛び出すことでしょう。
このとき扁桃体が盛んに活動しており、私たちが生き延びるために必要な闘争・逃走反応を引き起こしているのです。
黒板を引っかく音は悲鳴に似ていた
ではどうして、黒板を引っかく音が人間の生存本能を刺激するのでしょうか?
科学者たちは、この音と悲鳴を結び付けています。
悲鳴は他の音と同様に複数の周波数で構成されています。
ある研究では、悲鳴の異なる周波数を分離し、不快度に応じてランク付けしてもらいました。
その結果、最も耳障りだったのは悲鳴の最高音ではなく、中間周波数の音だと判明。
そして黒板を引っかく音の周波数は、悲鳴の中間周波数と完全に一致しています。
これにより科学者は、黒板を引っかく音が人間の脳に悲鳴と同じ警鐘を鳴らすと推測。
人間は生死にかかわる状況に遭遇したときに悲鳴を上げ、周囲に危険を知らせます。
私たちのほとんどは、悲鳴が聞こえたときに体を硬直させ不安になり、周囲の安全を確認したくなります。
これらはすべて身を守るための防衛反応だと言えるでしょう。
そのためある研究では、私たちの耳が生存率を高めるために、「悲鳴のような耳障りな音を増幅させる」という説も唱えられています。
とはいえ本物の悲鳴とは異なり、黒板を引っかく音からは視覚的な脅威を確認できません。
そのため聴覚と視覚の情報に矛盾が生じ、私たちの脳はそのことに不快感を覚えるとも言われています。
もちろん、これらの理論が科学的に証明されたわけではありません。
とはいえ、多くの人は黒板を引っかく音が悲鳴と似ていることに同意できるはずです。
そしてその周波数が私たちの生存本能を刺激し、「その場から逃げ出したくなるような不快感を与えている」という理論にも納得するのではないでしょうか。
参考文献
Why Do Certain Sounds Make Our Skin Crawl?
提供元・ナゾロジー
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