高級時計ブランドでもっとも人気が高いロレックスの中でも、今一番手に入れたい人が多いのが「デイトナ」だろう。あまりの人気に新品は在庫切れが続き、中古で買おうものなら定価の約2倍にもなる。そんなスターモデル「デイトナ」は本当にスゴイのか? 

ロレックスのデイトナを手に入れるために「マラソン」をする人がいる

「デイトナマラソン」という言葉をご存知だろうか。「デイトナマラソン」とは、人気が沸騰したことで品切れが続き、めったに入荷することのない「デイトナ」を求め、ロレックス正規店を巡回することである(※正式名称は「コスモグラフ デイトナ」だが、本記事では一般的に認知されている「デイトナ」と表記する)。

ツワモノともなると、一日にロレックスの正規店を10店舗以上巡ると言うからただ事ではない。交通費もかさむというのに、そこまでしてなぜロレックスのデイトナを手に入れたいと思うのか。

間違いなく言えることは、デイトナマラソンのランナーがデイトナのプレミア性に惹きつけられているということだ。このデイトナ、定価は138万7100円。その買取価格は、なんと240万を超えるので、定価で買えたらそれだけで100万円の儲けが出る計算になる。

ロレックスのデイトナが異常なまでに価格高騰する理由

ロレックスのスポーツモデルは、中国をはじめとする世界的な需要の高まりによって軒並み高騰しているが、デイトナのように「マラソン」までさせるモデルはない。

そもそもデイトナは、現在の爆発的なロレックスブーム以前からマニアを惹き寄せる要素が満載でプレミア価格が付きやすいモデルだったのだ。

まず、ロレックス唯一のクロノグラフ搭載モデルという立ち位置がいい。デイトナは1963年にモータースポーツ用の時計として発売されたが、時計マニアにとってタイムを計測できるなんていうことはどうでもいい。コンマ単位まで計測できる複雑で精緻なクロノグラフ機構が収まっていることが大切で、それだけで価値が高い。今のようなデイトナブームの前から、デイトナのリセールバリューは高く、値崩れしないモデルとして知られていた。

マニア心をくすぐる仕様違いの存在も大きい。例えば俳優のポール・ニューマンが着用したことで「ポール・ニューマンモデル」と呼ばれる特殊ダイヤルを持ったモデルの価値は、状態によっては1000万円を超える価格で取引されている。

デイトナは同じ型番でも頻繁に書体を変えており、生産数の少ないレアなタイプはマニアの人気が殺到し価格が高騰する。そこに、投資目的の購入層が便乗することでさらにプライスがうなぎ昇りというインフレスパイラルが形成されるのだ。

人気なのに「デイトナ好き」がいない不思議なモデル

ところで、デイトナのデザインが好き、デイトナの歴史が好きという人が身の回りにいるだろうか。

筆者は時計業界関係者とよく話すし、もし偶然デイトナが売っていたら買うという人を何人も知っている。ところが、彼らはデイトナを好きなわけではない。あくまでデイトナの市場価値に魅力を感じているのだ。時計好きの間ではデイトナは言わばキワモノ扱いされている節もある。

それではデイトナは実際にいい時計なのか。時計そのものの作りから、デイトナの価値を紐解いていこう。

ロレックスのデイトナは中身も見た目も地味な優等生

前述したようにデイトナは、ロレックス唯一のクロノグラフだ。1963年のデビュー当時はバルジュー社が製造した手巻きムーブメントを搭載していた。1988年に手巻きから自動巻きに切り替え、クロノグラフに定評のある『ゼニス』から「エル・プリメロ」という名ムーブメントの供給を受ける。

2000年に誕生した一世代前モデルからは完全自社製に切り替えた。余談だが、現在では自社製にこだわるロレックスの外注ムーブメント搭載モデルも、当然ながらプレミア価格が付いている。

デイトナの内部はやや地味で存在感に欠けている?

ロレックスの手によるクロノグラフムーブメントはと言うと、かなりの安定志向だ。例えばゼニスの「エル・プリメロ」は、「36,000振動/時」というスペック的な“ウリ”を持っていたが、ロレックス自社製ムーブは「28,800振動/時」でいたって普通。

その代わり、耐久性を上げたり、ゼンマイの駆動時間を増やしたり、部品数を減らしてメンテナンス性を高めたりといった一見地味な改善にとどめている。デイトナは派手さがないものの、整備面や実用性を重視する業界関係者の間では、かなり高い評価を受けた。

とは言え、高級時計は自己主張の塊だ。ユーザーとしては、自分の時計に分かりやすく“スゴイもの感”を感じたい。全体的には良くなっているにも関わらず、振動数が減少したことから、ロレックスの自社製になって「デイトナ」は劣化したと言っていた人もいたぐらい、新ムーブは分かりやすい部分での存在感に欠けていたことは否めない。

現行のデイトナも、ヒゲゼンマイに磁気の影響を受けにくくなるパラクロム素材を採用するなど、2000年に登場したものにマイナーアップデートを施したムーブを使っている。ただでさえ地味なムーブを20年使い続けているのだから、「デイトナ」の内部はやや枯れた印象があると言ってもいいだろう。

デイトナは古臭いおじさんの時計に見える?

最新デイトナのルックスはどうだ。こちらも腕時計の最新のデザイン言語からすると時代遅れ感がある。

曲線を多く使った文字盤はエレガントではあるものの、例えば、『オーデマ・ピゲ』の「ロイヤル オーク」のエッジィさに比べるとかなり野暮ったい。セレブがこぞって身につけている『リシャール・ミル』や『ウブロ』の立体的な構成や、異素材を組み合わせたモダンな時計を見てしまうと、デイトナは古臭いおじさんの時計に見えてしまう。  

ロレックスのデイトナを買っていい人、ダメな人

「人気沸騰」「今一番手に入らない高級時計」といったメディアの煽り文句から、デイトナは最先端のきらびやかな時計と思われるかもしれない。だが、デザイン的には極めて無難、機能的には優秀だが尖ったところがなく地味な優等生的な存在だ。

メディアで騒がれている「スゴイ時計」だからどこへ行ってもイバリが効くと思ったら痛い目にあうだろう。デイトナは、イメージ的に堅実安心のメルセデスCクラスセダンのようなものなのだ。

例えば、フェラーリやランボルギーニ所有者のオフ会にCクラスで行っても何の自慢にもならないように、裕福層の集まりでデイトナを着けて行っても何の注目も浴びない。あくまでデイトナはプレミア価格で話題になっているモデルということを肝に命じておくべきだろう。

時計マニアの集まりに持っていってもあまり興味を持たれない。腕時計マニアはデイトナの良さをもっとも評価しているが、同時に彼らを興奮させるには古すぎる。

時計を投資として考えている人は、定価で販売しているのをみかけたら絶対に買うべきだ。なにしろ、購入価格の倍近くで売れるのだから。

もちろん、デイトナが好きな人も買って損はない。刺激はないが、精度などの性能は現代でも最高峰で、壊れにくい。とは言え、手に入れたくともどこにも売っていないのだが。
  文・吉本隆太(時計ライター)
 

【関連記事】
ロレックス以外に「オシャレ」「投資対効果」を満たす腕時計はない
富裕層のガレージにフェラーリやランボルギーニがある理由
シュプリームが支持され続けるワケ 6万円のTシャツがオークションで16万円に?
「なぜ富裕層は「英国靴」を愛用?庶民は知らない「エドワードグリーン」と「ジョンロブ」
40代におすすめの腕時計ブランドは?ロレックス、カルティエが2強!