「シマウマは単なる縞模様の馬ではない」
これはヨーロッパの植民者がシマウマを飼い慣らそうとして、幾度となく失敗したことから得た教訓です。
確かに、馬は世界中で家畜化に成功していますが、シマウマが荷車を引いたり、馬車になる例はほぼありません。
なぜシマウマは家畜化できないのでしょうか?
家畜化できないワケは生息環境にあった
シマウマは、馬やロバと同じ「ウマ科(Equids)」に属します。
この3種は非常に近縁で、それぞれをかけ合わせたゼドンク(zedonk、シマウマとロバの交配種)や、ゾース(zorse、シマウマとウマの交配種)、ゾーニー(zonie、シマウマとポニーの交配種)などを作ることができます。
ところが、シマウマだけは他の近縁種と違い、人間に服従することを抵抗しつづけました。
一体、なぜでしょうか?
それには自然での生息環境が関係しています。
シマウマと馬は、約400〜470万年前に共通祖先から枝分かれし、それぞれの環境に適応してきました。
北米やヨーロッパの野生馬の群れは、当初は食用動物として飼われていましたが、後に人間に慣れ親しむようになります。
約1万2000年前に農耕が始まってからは、馬が輸送や戦争で非常に役立つことが分かりました。
そこで人類は馬を家畜化するために、最もおとなしい個体を選択的に繁殖させたのです。
しかし、馬とは異なり、アフリカの広大なサバンナで生きるシマウマは、獰猛なライオン、電光石火のチーター、狡猾なハイエナなど、あまりに多すぎる天敵に悩まされてきました。
そのため、シマウマは危険な兆候があればすぐ逃げ出せるような非常に敏感な動物になったのです。
特にシマウマは気性が荒く、捕獲されることをとても嫌がります。
また、体格に似合わない攻撃力も備えており、襲ってきたライオンを後ろ蹴り一発で仕留めた例もあるほどです。
さらにシマウマは、群れで生活する野生の馬とは異なり、家族構成や上下関係を持ちません。
これが他者との協調性を、ひいては人との信頼関係を築けない大きな要因です。
このように、人々はシマウマが友好的でないことにすぐ気づきましたが、それでも家畜化に成功した例はいくつかあります。
どうしてもシマウマに乗りたかった人たち
19世紀に、ニュージーランドの首相を務めたジョージ・グレイ(1812〜1898)が、南アフリカからシマウマを輸入しました。
グレイは知事に就任した際、シマウマに馬車を引かせたがったといいますが、あまり上手くはいかなかったようです。
それから、イギリスの動物学者であったウォルター・ロスチャイルド(1868〜1937)も、長い時間をかけてシマウマを飼い慣らし、シマウマの引く馬車でバッキンガム宮殿に行ったと伝えられています。
また、20世紀初頭には、ナイロビで最初の医師となったロゼンド・リベイロ(1871〜1951)が、シマウマに乗って各家を往診していました。
しかし、これらはシマウマを飼い慣らした2、3の例にすぎません。その陰では、多くの試みが失敗に終わっています。
2013年には、米・バージニア州在住の女性、シーア・インマンさんが、シマウマを訓練して、乗馬を試みました。
何ヶ月にもわたる忍耐と報酬を与える訓練を続けた結果、なんとかシマウマに乗れたものの、インマンさんはこう述べています。
「30年も人を乗せ続けてきたベテラン馬のように振る舞う日もあれば、次の日には、人を見たことないような態度を取ることが良くある」
インマンさんがシマウマに乗る様子。
このように、シマウマは馬のような外見にもかかわらず、人間に簡単には服従しません。
結局のところ、シマウマには、弱肉強食のアフリカの地で育ったDNAが深く刻み込まれているのです。
参考文献
Why zebras were never domesticated
提供元・ナゾロジー
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