突然ですが、問題です。
①3÷0はいくつですか?
②0÷0はいくつですか?
一見すると、簡単な割り算の問題ですが、ワナがあります!
学校などで「0で割ってはいけない」という話を一度は聞いたことがありませんか?
Windows10に内蔵されている電卓に「3÷0」を入力すると「0で割ることはできません」と表示され、「0÷0」を入力すると「結果が定義されていません」と表示されます。
今回は、この不思議な「0除算」について解説していきます。
「割り算」の定義
そもそも「割り算」とは何なのでしょうか?
まずは、「割り算の定義」を確認することから始めましょう。
小学校で「割り算」を習ったときに、「リンゴ6個を3人で分けます。1人何個ずつ分ければよいでしょうか?」といった問題で、「6÷3=2」と答えを出しましたよね。
そのため、「割り算は、物を等しく分けるときに使う計算」というイメージを持っている方が多いと思います。
ということは、「割り算」を
“ 割り算「a÷b」とは、a個の物をb人で等分したときに、1人あたり何個となるかを表す数である。 ”
(難波博之「学校では絶対に教えてもらえない超ディープな算数の教科書」p.46より引用)
と、定義するのが良さそうです。
しかし、ちょっと待ってください!
例えば、「1÷0.25」のような割り算で、上記の定義を適用すると、ちょっと無理があります。「1個のものを0.25人で等分」って、なんだか変ですよね。
「(-2)÷(-1)」のような割り算にも、上記の定義をうまく適用できません。「-2個のものを-1人で等分」となってしまい、ますます謎です。
つまり、先ほどの割り算の定義では、考える数の範囲を広げたときに、うまく適用できないのです。
そこで、新たな割り算の定義を採用します。
それは
“ a÷bとは、a=b×cとなるcのこと。 つまり、bをかけるとaとなる数のこと。 “
(難波博之「学校では絶対に教えてもらえない超ディープな算数の教科書」p.51より引用)
という定義です。
少し難しい定義に見えますが、具体例を考えてみると、わかりやすいですよ。
まず、6÷2について考えてみましょう。
6÷2とは、
c×2=6
となるc、つまり、「2をかけると6となる数」のことなので、3となります。
次に、1÷0.25について考えてみると、
1÷0.25とは、
c×0.25=1
となるc、つまり、「0.25をかけると1となる数」のことなので、4となります。
最後に、(-2)÷(-1)について考えてみると、
(-2)÷(-1)とは、
c×(-1)=-2
となるc、つまり、「-1をかけると-2となる数」のことなので、2となります。
このように、新たな定義を採用することで、「1を0.25で割る」や「-2を-1で割る」が無理なくできるようになりました。この新たな定義が「0除算」について理解するための重要なポイントです。
そして、もう一つ、「割り算の定義」に付け加えておくべきことがあります。
それは
“ a÷bとは、「bをかけるとaとなるcがちょうど1つ存在するとき」そのcのこととする。 “
(難波博之「学校では絶対に教えてもらえない超ディープな算数の教科書」p.58より引用)
の「ちょうど1つ存在する」の部分です。
6÷2の答えは「3」に決まり、それ以外になることはありません。つまり、答えが「ちょうど1つ」存在しています。
当たり前のようにも見えますが、この「ちょうど1つ存在する」の部分も、「0除算」について理解するための重要なポイントです。
ここまで読んで、「新たな定義を採用するなんて、なんだか変なことするなあ」と感じた方もいるかもしれません。
しかし、数学では「より広い範囲で考えられるようにするために、新たな定義を採用する」ということがよくあります。
例えば、高校数学の三角比(数学Ⅰ)と三角関数(数学Ⅱ)でも同じことが起きているのです。
三角比の最初では、サイン・コサイン・タンジェントを、直角三角形を使って定義していますが、三角関数では、単位円(半径1の円)を使った定義に変わっています。
これにより、負の角度など、より多くの角度を扱えるようになるのです。
このように、割り算においても、「より広い範囲で考えられるようにするために、新たな定義を採用する」ということをしています。
そして、この新たな定義は、「1を0.25で割る」や「-2を-1で割る」といったケースだけでなく、「√6を√2で割る」や「-1をi(虚数単位)で割る」などにも適用することができるのです。
3÷0はいくつ?0÷0はいくつ?
まず、「3÷0」について考えてみましょう。
「3÷0の答えは存在し、その答えはcである」と仮定して、割り算の定義にしたがって考えてみると……
cは
c×0=3
となる数、つまり、「0をかけると3となる数」のこととなります。
しかし、「0をかけると3となる数」は存在しません。
これは、3だけではなく、0でない数aに対しても、同じことが言えます。
「a÷0の答えは存在し、その答えはcである」と仮定すると……
cは
c×0=a
となる数、つまり、「0をかけるとaとなる数」のこととなります。
aが0でない場合は、「0をかけるとaとなる数」は存在しません。
では次に、「0÷0」について考えてみましょう。
「0÷0の答えは存在し、その答えはcである」と仮定すると……
cは
c×0=0
となる数、つまり、「0をかけると0となる数」のこととなります。
先ほどとは違い、このようなcは存在します。例えば、c=1の場合に、c×0=1×0=0となりますよね。
「じゃあ、0÷0=1だ!」と言いたいところですが、c=2やc=3など、cにどんな数を入れても「c×0=0」は成り立ってしまうのです。
となると、先ほどの割り算の定義にあった「ちょうど1つ存在する」の部分に矛盾してしまいます。
以上をまとめると、
・aが0でないとき、a÷0=cと仮定すると、このようなcは存在しない
・0÷0=cと仮定すると、このようなcは1つに定まらない
ということになり、以下の割り算の定義
“ a÷bとは、「bをかけるとaとなるcがちょうど1つ存在するとき」そのcのこととする。 “
(難波博之「学校では絶対に教えてもらえない超ディープな算数の教科書」p.58より引用)
に矛盾してしまうのです。
そのため、「a÷0は定義されない」とするのが一般的になっています。
こんな背景から、「0で割ってはいけない」と言われているんですね。
不思議な証明に隠れている0除算
最後に、「2=1の証明」を紹介します。
(※虚構新聞「『2と1は等しい』 数学界で論議」より引用)
おかしな部分がコッソリ隠れているので、探してみて下さいね!
まず、
a=b
とします。
両辺にaをかけると
a2=ab
となります。
両辺からbの2乗を引くと
a2−b2=ab−b2
となります。
左辺に因数分解の公式を使い、右辺をbでくくると
(a−b)(a+b)=b(a−b)
となります。
両辺を(a-b)で割ると
a+b=b
となります。
a=bより、a+b=b+b=2bなので
2b=b
となり、両辺をbで割ると
2=1
となってしまいました!
ふつうに計算しているように見えますが…おかしなところに気づきましたか?
それは「両辺を(a-b)で割ると」の部分です。
a=bなので、「(a-b)で割る」とは「0で割る」ということ。そして、「(a-b)÷(a-b)=1」、つまり、「0÷0=1」として計算していたのです。
また、最後も、さりげなく両辺をbで割っていますが、割り算をするときは「0で割ってないか?」をチェックしなければなりません。
もしも、今回のように「a=b」しか与えられておらず、どうしてもbで割りたい場合は「bが0でないとき」と限定する必要があります。
こんな風に「0除算」に注意することで、おかしな証明のヒミツを見抜けることがあるのです。
また、見抜くだけでなく、「0除算が隠れたおかしな証明」を自作してみるのも楽しそうですね!
今回、最初に出題した「3÷0」や「0÷0」を考えるためには、「割り算の定義」を確認する必要がありました。
このように、数学では「定義」を確認することがとても大切です。
ぜひ、割り算以外にも「○○の定義って、なんだろう?」と調べたり、「どうして、こんな風に定義したんだろう?」と考えたりしてみてくださいね。
数学の面白さを、より感じられるかもしれませんよ!
<補足>
今回の記事では、考えている数の集合として「実数」や「複素数」を前提としています。実数や複素数は「体(たい)」と呼ばれる性質を満たしており、これが今回のような除法の話と関連しています。
関心のある方は「数学 体」で検索してみてくださいね!
参考文献
難波博之「学校では絶対に教えてもらえない超ディープな算数の教科書」
虚構新聞「『2と1は等しい』 数学界で論議」
提供元・ナゾロジー
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