ヒトの脳には死後に活性化する「ゾンビ遺伝子」が存在するようです。
3月23日に『Scientific Reports』に掲載された論文によれば、死にたてのヒト脳サンプルを分析した結果、特定の遺伝子が死亡した24時間後も活動し続けていることが示されました。
さらに、これら遺伝子が活性化した細胞が死亡した4時間後に増殖を開始し、12時間後に活性ピークを迎え、複数の触手を展開させている様子も確認されたとのこと。
死後に活性化する遺伝子、そして死んだはずの脳で増殖する細胞は、映画やゲームに登場する「ゾンビ」を思い起こさせます。
どうして、これらの遺伝子や細胞は死後に脳で活性化するのでしょうか?
目次
ヒトの死後に脳内で生きて増殖する「ゾンビ細胞」を発見!
死後に活性化する脳細胞
ヒトの死後に脳内で生きて増殖する「ゾンビ細胞」を発見!

死後に「ゾンビ細胞」が増殖して触手を出している様子 / Credit:イリノイ大学 これまで多くの医師や研究者は、心臓が停止すると脳もすぐに完全な死を迎えると考えてきました。
しかし2016年以降に発表された研究では、マウスやゼブラフィッシュの脳において、特定の遺伝子と細胞が死後に「覚醒」し、マウスにおいては2日間、ゼブラフィッシュにおいては4日間も活動を続けることが示されました。
この結果は既存の医学的常識を覆すものであり、死後も脳には生きた細胞が存在し、数日に渡って何らかの活動を続けることを示します。
そこで今回、イリノイ大学の研究者たちは、同じ現象が人間の脳において起きているかどうか確かめることにしました。
研究にあたっては、外科的に切り離された「死にたて」の人間の脳から一定時間ごとに細胞を採取して磨り潰し、遺伝子の活性度(RNA量)を調べました。

死後ニューロン細胞系の遺伝活性は低下するがグリア細胞系の遺伝活性は逆に増加する / Credit:Scientific Reports 結果、ヒトの脳においても死後に覚醒するゾンビ遺伝子が24時間にわたり活動しており、ゾンビ遺伝子が活性化した細胞は死亡した4時間後に増殖を開始し、12時間後には活性ピークを迎えていることがわかりました。
また研究により、ヒト脳で増殖していたゾンビ細胞の正体が、グリア細胞の一種であることも判明します。
グリア細胞には脳の環境や構造を保持したり、壊死した脳細胞を除去する働きが知られています。
研究者たちは、これらグリア細胞の増殖は、死によって大量に発生した死んだニューロンに反応しているのではないかと考えています。
死後に活性化する脳細胞

今回の研究により、人間の脳にも医学的な死の後に働き続ける細胞が存在することが示されました。
この結果は、人間の脳は死に対して従来考えていたよりも複雑な反応をすることを示します。
研究者たちは今後も「死んだ脳の活動」を研究し、どのタイミングでどの遺伝子や細胞が活性化・安定・分解していくかを調べていくとのこと。
もし解明されれば、脳損傷や低酸素性脳損傷に起因する神経障害や精神障害の仕組みを解明し、治療法の開発にもつながるかもしれません。
参考文献
Your Brain Has ‘Zombie’ Cells That Actually Grow After You Die
‘Zombie’ genes? Research shows some genes come to life in the brain after death
元論文
Selective time-dependent changes in activity and cell-specific gene expression in human postmortem brain
提供元・ナゾロジー
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