レスリングは、全身でぶつかり合い技をきめて得点を競う格闘技です。日本人選手がオリンピックで活躍する姿を観たことがある人も多いのではないでしょうか。そこで今回は、もっとレスリングを楽しんでもらうために、スタイルやルールを解説します。独特なルールも必見です。
目次
レスリングはどんな格闘技?
レスリングは、2人の選手がマットの上で向かい合い、全身をぶつけあって技を競う格闘技です。スピード力、一瞬の隙を逃さない洞察力や判断力、技のテクニックが求められる競技でもあります。また、体の柔軟性、全身の筋力も選手能力の一つです。
レスリングは道具を使わない競技
レスリングは、道具を使わないスポーツでもあります。道具を使う競技では、道具の性能や相性、使いこなす技術が試合を左右することも。しかし、レスリングは道具を使わないからこそ、選手自身の実力のみが試合の勝敗を左右するのです。
レスリングの歴史は古い
レスリングの起源は今から約5000年前で、人類最古のシュメール人の時代といわれています。古代エジプトの壁画にも裸でぶつかり合う人類の姿が描かれており、当時は男性のトレーニングとして重要視されていました。
古代レスリングは裸で競技
古代レスリングは今のように衣類は身につけていません。全身にオリーブオイルを塗り、その上から砂をまぶした状態で競技が行われるのがルールでした。ユニフォームの代わりに、全身に塗った砂が滑り止めの役割をしていたのですね。
レスリングのオリンピックでの歴史
レスリングが初めて現代オリンピック競技として採用されたのは1896年のアテネオリンピックです。当時は男子のみで女子競技はありませんでした。その後、2004年アテネオリンピックから女子競技としても認められ、現在まで男子女子ともに夏季オリンピック競技として続いています。
レスリングの基本ルール①スタイルと階級
レスリングのスタイルには、「フリースタイル」と「グレコローマンスタイル」があります。現在、フリースタイルは男子女子ともに採用されているスタイルです。一方、グレコローマンスタイルは男子のみのスタイルとして競技されています。
全身で戦うフリースタイルの特徴
フリースタイルのルールでは、頭からつま先まで全身で攻撃、防御が認められています。その魅力は、投げ技から寝技まで幅広い技の掛け合いが見られるところ。特に、フリースタイルの定番技「タックル」は、近くで観戦していると衝撃音が聞こえるほど激しいものです。
上半身で戦うグレコローマンスタイルの特徴
男子競技のみのグレコローマンスタイルのルールでは、腰から上の攻撃、防御のみが認められています。上半身のみで競い合うため、基本的には立ち技が主流です。中でも、一瞬の隙を捉えての「投げ技」はスピードがありダイナミック。お互い肩を組んで上半身を押し合う状態から、投げ技に持ち込むのが基本スタイルになります。
レスリングの階級
レスリングは階級に分かれて行われます。体格差で不利にならないようにルール規定がされているのですね。さらに、階級は、「オリンピックルール」と「オリンピック以外のルール」の2種類が定められています。
オリンピックルールのほうが階級区分が少ないのが特徴です。そのため、選手はオリンピックに向けて現在の体重の増減が必要になってきます。体重増減に合わせて全身の調整も必要になってくるのです。
レスリングの階級表
オリンピック | 57㎏ | 65㎏ | 74㎏ | 86㎏ | 97㎏ | 125㎏ | ||||
オリンピック以外 | 57㎏ | 61㎏ | 65㎏ | 70㎏ | 74㎏ | 79㎏ | 86㎏ | 92㎏ | 97㎏ | 125㎏ |
オリンピック | 60㎏ | 67㎏ | 77㎏ | 87㎏ | 97㎏ | 130㎏ | ||||
オリンピック以外 | 55㎏ | 60㎏ | 63㎏ | 67㎏ | 72㎏ | 77㎏ | 82㎏ | 87㎏ | 97㎏ | 130㎏ |
オリンピック | 50㎏ | 53㎏ | 57㎏ | 62㎏ | 68㎏ | 76㎏ | ||||
オリンピック以外 | 50㎏ | 53㎏ | 55㎏ | 57㎏ | 59㎏ | 62㎏ | 65㎏ | 68㎏ | 72㎏ | 76㎏ |
レスリングの基本ルール②トーナメント方式
レスリングの試合はトーナメント方式で行われることがルールに規定されています。トーナメントは8の倍数で組まれる決まりです。出場選手が8名未満の場合のルールは、2リーグ戦やトーナメントを組まない総当たり戦と定められています。
レスリングのルールには敗者復活戦がある
トーナメント方式で優勝、準優勝が決定します。3位以下は敗者復活戦のルールを適用。具体的には、優勝選手に1回戦で敗退した選手と2回戦で敗退した選手が敗者復活1試合目で戦うルールです。
その勝者と優勝選手に3回戦で負けた選手が敗者復活2試合目で戦います。そこで勝った選手が、優勝選手との準決勝で負けた選手と戦い、勝者が3位を勝ち取るルールになっているのです。
7位以下は試合の総内容で決定するルール
敗者復活戦のルールにより、3位から6位までが決定します。7位以下は、全試合の勝ち点や警告による失点、技の得点の大小などにより決定する仕組み。同じ1回戦で敗退した選手でも、試合の内容によって順位の差がつくルールになっているのです。
レスリングの基本ルール③競技時間
レスリングのルールでは、競技時間はたったの6分間です。3分1ピリオドを戦い、間に休憩を30秒挟んで、さらに3分1ピリオドを戦うというもの。わずか6分のために、日々技を磨き、相手選手を研究して攻略を考えているのです。
相手選手も勝つために戦略を練っています。だからこそ、弱点克服にも取り組まなければなりません。
1ピリオド3分は意外と長い
レスリングの1ピリオドは、わずか3分、されど3分。これは意外と長いものです。例えば、相手が全力で自分を押さえつけてきたとします。体格や力が互角の相手に対してすぐさまかわせるでしょうか。しかも、一度押さえ込まれるとそれを振りほどくには相当の体力を使います。
さらに、相手から次から次へと繰り出される技をかわしながら、こちらも技をかけて得点を取らなければなりません。動き続ける3分間は、意外と長いのです。
相手の出方を待っている暇はない
3分の間に得点を重ねるためには、相手の出方を待っている暇はありません。残り10秒、5対2で勝っていたとしても4点技を決められてしまえば逆転されてしまいます。このように、レスリングは残り数秒でも一発逆転されてしまう競技です。
だからこそ、得点が上回っていても相手の出方を待っている暇はありません。しかも、攻撃をしないと審判から警告を受けるというルールがあるので、3分の間積極的に攻めていく必要があります。
レスリングの基本ルール④勝敗を決める方法
レスリングのルールでは、勝敗が決まる方法は大きく分けて5通りあります。勝ち負けのルールを知っておかなければ試合を観戦してもおもしろくないですよね。そこで、ここでは勝敗が決まる方法を一つずつわかりやすく解説していきます。
フォールで一発勝利する方法
フォールとは、相手選手の両肩を1秒間マットに押さえつける技です。このフォールで、試合終了。勝者が決まるというルールです。他に1技で勝利が決まる技はないため、選手は当然フォールを狙います。 しかし、ブリッジで肩を持ち上げたり、全身をねじってグランドから肩を離されたりすることが多く、簡単に決まる技ではありません。
テクニカルフォールで勝利する方法
テクニカルフォールとは、フリースタイルでは10点差、グレコローマンでは8点差がついた時点で試合終了を意味するルールです。例えば、フリースタイルで2対11の9点差のときに場外に出てしまうと相手に1点が加算されます。その時点で試合終了。
接戦でなくとも、5点の大技を決めてテクニカルフォールとなることもありますので、勝者は最後までわかりません。
コーションで勝利する方法
コーションとは警告のことです。レスリングのルールではコーションを3回受けると相手の勝利が確定します。コーションを受ける反則技は、キック、パンチ、髪の毛をつかむ、ユニフォームをつかむ、首を絞めるなど。柔道では認められている関節技はレスリングでは反則とルールに規定されていますので注意が必要です。
総合点で勝者を決める方法
フォール、テクニカルフォール、警告による失格で勝者が決まらない場合は、2ピリオドの総得点で勝者を決定するのがルールです。3分終了した時点で大きな点差がついていたとしても、次の3分で逆転できる方法があるということ。30秒の休憩タイムで作戦を練ったり、集中力を高めたりすることで、十分逆転も狙えます。
同点の場合の方法
レスリングのルールでは2ピリオドを修了して同点の場合でも延長戦はありません。次の方法で勝者を決めます。ビッグポイント(大技)を比較して、より大きな得点技を繰り出した選手が勝利者です。
それでも決まらなければ、コーションの少ない選手が勝者になります。さらに決着がつかない場合は、ラストポイントを獲得した選手が勝者になるのです。
レスリングの基本ルール⑤技の種類
レスリングルールに規定された決め技にはいくつかあり、それぞれに得点も異なります。ここでは、代表的な立ち技と寝技を解説していきましょう。
実際の試合は速いテンポで進んでいくので、「今のは何の技?」と思うこともありますが、何度か観戦するうちに技の決まった瞬間がわかるようになるはずです。
ビッグポイント技
見ている者にもわかりやすい華やかな技が「投げ技」。攻撃の基本であるタックルに来た相手の体をつかみ、自らの体をひねって投げます。腕や肩をつかんで投げる一本背負い、胴をつかんで投げる胴投げ、首をつかんで投げる首投げが代表的ですね。
柔道や合気道の投げ技と大きく違うのは、ユニフォームをつかんで投げることができないこと。レスリングのルールではユニフォームをつかむと反則になってしまうからです。
グランド技
相手にタックルをして両手両ひざ頭のうち3点をマットにつける、または、背中をマットにつけることをテイクダウンといい、2点を獲得できる技です。そして、テイクダウンから繰り広げられる技をグランド技、または寝技といいます。
グランド技では両肩を地面に向けさせるためにあらゆるテクニックが見られることも。レスリングのルールでは両肩が地面を向くと2点を奪えるからです。グランド技にはいくつか種類がありますのでひとつずつ方法を説明していきましょう。
ローリング
ローリングとは、うつ伏せになった相手の背後に回り込み、胴をつかんで自らが回転して相手をひっくり返す技です。相手の両肩が地面を向けば2点を獲得。両肩を地面に向けさせるためにはうつ伏せの状態から90°の回転が必要です。
一方、技を解かれてしまい、逆に抑え込まれて両肩をマットに押さえつけるフォールに持ち込まれることもあります。有利なポジションに入っても気を抜くことはできません。
アンクルホールド
アンクルホールドは、その名のとおり、相手の足首を腕で挟み込んでホールドした状態から自らの回転を利用して相手も回転させる技のこと。1回転することで相手の両肩が地面を向き、2点が奪えます。
また、勢いをつけて何度も回転を重ねることで、点数の加算を狙うこともできる技です。
股裂き
股裂きとは、相手の足をとり、股関節を両足で挟み込んだ状態のまま自らの上体を回転させる技です。一度技が決まると解こうと動いてもなかなか解けません。そのうえ、激痛のため相手は上体をひっくり返してしまいます。その結果、両肩が地面を向くことで得点を奪えるのです。
レスリングの基本ルール⑥チャレンジ制度
レスリングのルールにはチャレンジ制度が定められています。チャレンジ制度とはビデオ判定のことです。チャレンジの方法は、レスリングコートの外側に待機しているコーチが、スポンジをコート内に投げ入れること。1点を争う接戦の試合の場合、チャレンジの見極めも試合の勝敗を左右します。
チャレンジ失敗の場合
チャレンジが認められれば得点は修正されます。ところが、逆にチャレンジが認められないと、相手選手に1点が加算されてしまうというのがルール。コーチは、「残り時間」「選手の体力」「優勢か劣勢か」という状況を見極めてチャレンジを使う必要があるのです。
ルールでは選手の拒否権が認められている
チャレンジ制度の申し出はコーチからですが、選手にはそのチャレンジを拒否する権利があります。マットの上で戦っているのは選手自身。だからこそ、選手の感覚で、チャレンジが失敗に終わると判断したときは拒否できるのです。
レスリングの基本ルール⑦選手の装備品
ユニフォームのルール
レスリングでは男子女子ともにシングレットといわれるユニフォームを着用する決まりです。色は、「赤」と「青」に決められています。好みや機能にこだわってユニフォームが選べる他のスポーツにはない、レスリング特有のルールです。
トーナメントで、組み合わせを決めるときに引いた抽選番号の大きい選手が「青」、小さい選手が「赤」を着用するルールになっています。
レスリングシューズのルール
試合では、レスリングシューズの着用が義務付けられています。基本的には靴紐はないものが推奨されますが、紐がある場合はテープなどでしっかり固定しなければいけません。全身から出る大量の汗で足が滑ったり、激しい衝突による怪我を防止する目的のためです。
ハンカチ持参のルール
レスリングにはおもしろいルールもあります。それは、ハンカチを持参しなければ試合に参加することはできないというもの。審判にハンカチを見せることで試合開始です。全身から流れ落ちる汗を拭いたり、流血したときに備える目的があります。
まとめ
今回はレスリングのルールを解説してきました。速いスピードで繰り出される技は見ていても複雑です。でも、基本的な技を知っているだけでレスリング観戦がきっと楽しくなります。3分という短い試合時間も観客の気持ちを引き付けて離しません。
お気に入りの選手を見つけて応援してみるのもいいでしょう。ここでの情報が皆様のお役に立てれば幸いです。
レスリングもっと知りたい方はこちらをチェック!
レスリングについてもっと知りたい方はこちらの記事もチェックしてみてください。レスリングの歴史からレスリング観戦に役立つ情報まで詳しく説明してありますよ。3年に1度改定されるルールの解説もあるので、ぜひご覧ください。
文・***/提供元・暮らし~の
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