勉強や仕事のときにコーヒーを飲むと集中力が高まると感じている人は多いと思います。

それはマルハナバチも同様のようです。

英国グリニッジ大学の研究チームは、ハチにカフェインを与えると、ハチが花の香りなどを学習する能力が向上すると報告。

この発見は、ミツバチの活動を利用して作物の受粉を行う農業に大きな影響を与える可能性があります。

研究の詳細は、科学雑誌『Current Biology』に7月28日付で掲載されています。

目次

  1. ハチはカフェインが好き?
  2. カフェインはハチの記憶力を向上させる

ハチはカフェインが好き?

今回研究されたのはミツバチ科の仲間のマルハナバチと呼ばれる種類です。

マルハナバチ(Bumblebee)は、西洋では非常に親しまれている昆虫で、「くまのプーさん」に描かれているハチはマルハナバチだといいます。

トランスフォーマーにもバンブルビーという人気キャラクターがいますが、これも西洋文化の中でマルハナバチが親しまれているためのネーミングといわれています。

そのため、マルハナバチをテーマにした研究というのも西洋では数多く発表されています。

過去の研究では、マルハナバチはカフェインが好きで、カフェインの入った花を用意すると、より頻繁にその花を訪れるようになるということが報告されています。

けれど、本当にハチはカフェインが好きなのでしょうか?

今回の研究者は、カフェインがハチに対して何か特別な役割を果たしたのではないかと疑いました。

そこで巣の中のハチにカフェインを与え、イチゴの花の香りを覚えさせるという実験を行ったのです。

カフェインは「ハチ」の記憶力も向上すると明らかに
(画像=研究者はハチにカフェインを与え、いちごの花の香りを覚えさせてみた / Credit:canva,ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

カフェインはハチの記憶力を向上させる

マルハナバチは視力が非常に悪いので、自分たちにとって最適なエサとなる花を見つけるのには苦労しています。

1度出遭った花の蜜を再度探す場合、彼らは嗅覚など視力以外の手がかりに頼って花を探すのです。

これまでの実験で、カフェインを混ぜた花を与えると、マルハナバチは次もカフェインの混ざった花に寄ってくることは示されていました。

しかし、これは花の中にカフェインが入れられていたので、ハチがカフェインに惹かれているのか、それともカフェインを摂取したことでハチの記憶力が向上したのか、特定することはできていなかったのです。

そこで、今回の研究では、86匹のマルハナバチを3つのグループに分けカフェインの影響を調べる実験を行いました

1つ目のグループにはイチゴの香りとカフェイン入りの糖液を与えました。

2つ目のグループには、イチゴの香りと糖蜜だけを与え、3つ目のグループには香りのない糖蜜だけを与えました。

カフェインは「ハチ」の記憶力も向上すると明らかに
(画像=マルハナバチを3つのグループに分けてカフェインの影響を調査した / Credit:canva,ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

そして、これらのハチを、すでに嗅いだことのあるイチゴの花と、まだ嗅いだことのない香りの花、2種類の置かれた実験場に放ったのです。

この実験では、イチゴの花の匂いと蜜の報酬との間に、肯定的な関連性を学習していなければ、ハチは実験場に用意された2種類の花に対して、どちらにも同じように寄っていくことになるはずです。

しかし、カフェインを摂取していたハチの70.4%が、イチゴの花を最初に訪れたのです。

一方カフェインなしでイチゴの香りと糖蜜を与えられたハチは60%、糖蜜だけだったハチは44.8%しか最初にイチゴの花を選びませんでした。

これは偶然では片付けられない差異です。

このことから、カフェインはマルハナバチに美味しい蜜のある花の香りを認識させ、それを記憶する能力を向上させていたと考えられるのです。

カフェインは「ハチ」の記憶力も向上すると明らかに
(画像=マルハナバチはカフェインを与えた場合、花の香と蜜の関係を記憶する能力が向上した / Credit:canva,ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

英国グリニッジ大学のサラ・アーノルド氏は「カフェインを与えると、ハチはやる気と効率が高まるようです」と話します。

カフェインを与えると巣の外でハチの活動が向上すると報告されたのは、これが初めてです。

さらにカフェインを与えられたハチは、運動能力も向上していて、一定時間内に花を訪れる回数も増加していました。

これはささやかな差だったといいますが、カフェインがハチの運動能力も向上させていた可能性が示唆されます

ただ、こうした反応は最初だけで、花の好みは長く続かなかったようです。

しばらく経つと、ハチはイチゴの花にも別の花にもほぼ同じように訪れるようになりました。

「これは予想できたことです」とアーノルド氏は語ります。

「なぜならどちらの花からも同じように彼らにとってごちそうとなる蜜が手に入るからです」

ある意味、学習するのと同じ速度で、彼らは覚えたことを忘れていました。

しかし、今回の結果は、ハチを媒介にした農業に大きな影響を与えるだろうとアーノルド氏は述べます。

イチゴ農家では、植物の受粉にマルハナバチを使っています。

そのために農家は、毎年数十~数百箱分のマルハナバチを購入して放っていますが、ほとんどのハチは目的のイチゴに向かわず、近隣の野草へと向かっていってしまうのです。

しかし、カフェインで学習させたハチを使えば、こうした作業はずっと効率的に機能し、農家に費用に見合った価値を提供することができるでしょう。

マルハナバチの作業時にもカフェインが活躍するとなると、仕事中にコーヒーを飲むのは、やはりとても合理的な選択なのかもしれません。

参考文献
A caffeine buzz helps bees learn to find specific flowers(phys)

元論文
Bumble bees show an induced preference for flowers when primed with caffeinated nectar and a target floral odor

提供元・ナゾロジー

【関連記事】
ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功