筋肉がここまで義理堅かったとは。
英語には “use it or lose it(使わなければ失ってしまう)” といった表現があります。これはたとえば、留学先でせっかく英語を覚えたのに、使わなくなって忘れてしまうようなことを指しています。
しかし、「Frontiers in Physiology」に掲載された新たな研究により、こと「筋肉」に関してはそれが当てはまらないことが明らかにされました。筋肉はずっと裏切らないようです。
「貯筋」のススメ
研究により、トレーニングによって培われた筋繊維を維持するための「細胞核」は、たとえ筋肉が衰えていき、筋細胞が縮小していったとしても状態を保ち続けることが分かりました。
また、そうして残った “myonuclei” と呼ばれる細胞核は、再びトレーニングをした際に、筋肉の早い成長を促してくれることが分かったのです。つまりこの結果は、年老いた際に筋肉の機能を衰えにくくするために、若い頃から筋肉の「貯金」ならぬ「貯筋」ができることを示しています。
人間の体には、「合胞体」と呼ばれる複数の核を含んだ特別な細胞が存在しています。心臓や骨や胎盤は、そうした細胞ネットワークを基盤にして作られたものです。しかし、そうした中でも、私たちの体の中にある圧倒的に大きな合胞体は「筋肉」であるとされています。
筋肉の成長は、幹細胞から新たな細胞核を得ることに伴って起こるものであり、そのことから、与えられた細胞核が細胞質の量をコントロールすると考えられてきました。つまりその仮定に基づくと、使わなくなることで筋肉が縮小したり、萎縮した場合、筋肉中の細胞核の数が減少していることになります。
筋肉は裏切らない
しかしながら、マウスと昆虫を用いた2つの独立した研究が、筋繊維の減少に伴って細胞核が数を減らすわけではないことを明らかにしています。これはつまり、ひとたび筋繊維が細胞核を得ることができれば、おそらく「一生」その細胞核は筋肉の合胞体に属することになるということです。
“myonuclei” は、いわば筋繊維のエンジンであり、それらを保持できるということは、たとえ衰えてしまっても筋肉のリカバーがすばやく行われることを意味しています。これにより、筋肉にも「記憶力」があるとする「マッスルメモリー」についても説明がつきます。
つまり、筋肉に関しては “use it or lose it(使わなければ失ってしまう)” ではなく “use it or lose it, until you use it again(使わなければ「再び使うまで」失ってしまう)” といった表現のほうが正しかったことが証明されたということです。
また、この結論はアスリートの「ドーピング検査」の難しさも浮き彫りにしています。つまり、禁止されている薬物の使用を止めたとしても、一度筋肉を増強させたことのメリットは「一生」残り続けるため、その規制も生涯を通じたものでなければならないのです。
しかしこれは、一般の人にとってはポジティブに受け止めるべき結論です。一度鍛えてしまえばそのことを「忘れない」でいてくれる筋肉。「筋肉は裏切らない」とはまさにこのことなのでしょう。
この記事は2019年1月28日に公開されたものを再編集して作成しています。
参考文献
Muscle memory discovery ends ‘use it or lose it’ dogma
元論文
Skeletal Muscles Do Not Undergo Apoptosis During Either Atrophy or Programmed Cell Death-Revisiting the Myonuclear Domain Hypothesis
提供元・ナゾロジー
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