月の影響で地球の自転速度が徐々に低下しているというのは有名な話ですが、それがなければ地球には生命が誕生していなかったかもしれません。
ミシガン大学の研究チームは、地球の自転低下による日照時間の延長がなかった場合、現在のように地球は酸素で満たされていなかった可能性があることをシミュレーションにより示しました。
こうなると、地球生命の誕生はなおさら奇跡に近い条件が揃ったものだったと考えざるを得なくなってきます。
研究の詳細は、科学雑誌『NatureGeoscience』に8月2日付で掲載されています。
自転速度が遅くなる地球
地球は月との潮汐摩擦によって自転速度を徐々に減速させています。
これは人間の時間スケールで気づくことはできませんが、地球の歴史においては大きな影響を与えるレベルで変化しています。
化石記録に基づくと、約14億年前の地球は1日がわずか18時間しかなく、7000万年前でも現在より1日が30分短かったことがわかっています。
1日が短くなると、当然日の出ている時間も減少します。
日照時間が減ることで影響を受けるのが植物の光合成です。
ミシガン大学微生物学者のグレコリー・ディック氏は、これが地球大気の酸素獲得に大きく影響した可能性があると話します。
「私たちの研究は、地球が自転している速度、言い換えれば日の長さが、地球の酸素化パターンとタイミングに重大な影響を及ぼした可能性を示唆しています」
約24億年前、地球には最初の植物とも言える藍藻(シアノバクテリア)が誕生しました。
そして、それから10億年後に大酸化イベントとして知られる、地球大気の酸素濃度の急激な上昇が起こります。
これがなければ、現在のような生命にあふれる地球は存在しなかったでしょう。
しかし、この出来事には謎があります。なぜシアノバクテリアが登場してから大酸化イベントまでに10億年もの歳月がかかったのでしょうか?
最初の10億年間、地球の酸素濃度は低い状態を保ったままでした。そこにはなにか理由があるはずです。
ティックの研究チームは、それが地球の日が長くなったことと関連しているのではないかと考えたのです。
では、この考えをつなぐ証拠はあるのでしょうか?
1日のシアノバクテリアの活動
地球の日の延長と、シアノバクテリアの活動の関係を明らかにするため、研究チームは北アメリカ五大湖の1つヒューロン湖にある、ミドルアイランド陥没孔を調査しました。
陥没孔(sinkhole)というのは、石灰岩などが崩落してできた地下の空洞のことです。
ここには大酸化イベントの原因となったシアノバクテリアの近類の微生物マットがあります。
微生物マットは水と岩や地面などの間に、層となって形成されている微生物群集のことです。
ヒューロン湖の深さ24mの底にあるミドルアイランド陥没孔の水は、硫黄が非常に豊富で酸素が少なく、数十億年前の地球にあった環境に酷似しています。
そのため、ここでの微生物の活動を調べることで、過去の地球の生態系で起きたことを研究するために利用できるのです。
ここでは2種類の微生物が特に目立っています。
1つは白い硫黄酸化細菌で、もう1つは紫色をした酸素生成細菌のシアノバクテリアです。
この2種の細菌は、それぞれ異なるものからエネルギーを得ています。その名の通り前者は硫黄から、後者は光合成により太陽光からエネルギーを獲得します。
そして、両者は生存域が競合していますが、活動時間を分けることでうまく共存するようになったのです。
夕暮れから夜明けにかけては、硫黄を消費するバクテリアがシアノバクテリアの上に覆いかぶさって活動し、日が出てくると、硫黄を食べるバクテリアは降下して、シアノバクテリアが日光を求めて表面に上がってきます。
シアノバクテリアは太陽光を浴びると酸素を生成しますが、彼らは非常にスロースターターです。
酸素生成量が最大に達するまで数時間以上かかります。
つまり、シアノバクテリアが1日にどれだけ酸素を生成し大気中へ放出できるかは、日照時間に強く影響されることが明らかとなったのです。
そして、この問題と地球の自転速度の低下による1日の時間変化をモデル化したところ、地球の酸素濃度の上昇ときれいに一致する結果が得られたのです。
なんとシアノバクテリアは、1日の長さがある一定以上の長さにならなければ、十分な量の酸素を大気中に拡散させることがなかったのです。
つまり、月との潮汐摩擦で地球の自転が低下しなかったら、地球にはいつまで経っても最初の10億年の低酸素の状態が続いていた可能性があるのです。
それは地球に我々人間を含めた生命が誕生しなかった可能性を意味しています。
この研究は、1つの推測に過ぎませんが、それでも生命の溢れる地球が誕生するためには、非常に複雑な要因が絡んでいたことがよくわかります。
参考文献
Earth’s Rotation Is Slowing Down, And It Could Be Why We Have Oxygen For Life(sciencealert)
Earth’s rotational slowdown may have led to life as we know it(ZME SCIENCE)
元論文
Possible link between Earth’s rotation rate and oxygenation
提供元・ナゾロジー
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