近年、筋肉や骨格を発達させる男性ホルモン「テストステロン」が大きく注目されてきました。
これにより、「テストステロン値が高ければ社会的・経済的に成功しやすい」という考えが広まっています。
テストステロン値は運動によっても上昇すると考えらえているため、「筋トレによるテストステロン増大が、人生の成功につながる」といったキャッチコピーなども見かけるようになりました。
ところが、イギリス・ブリストル大学(University of Bristol)に所属する社会疫学者アマンダ・ヒューズ氏ら研究チームが30万人の遺伝子解析を行った結果、テストステロンが人生の成功に影響を与えているという証拠は得られなかったと発表。
私たちは「テストステロン神話」に踊らされていたのかもしれません。
研究の詳細は、7月28日付の科学誌『Science Advances』に掲載されました。
遺伝子解析の結果、テストステロンは人生を成功に導かないと判明
研究チームは、UK Biobankに保管されているイギリス在住の成人30万6248人のサンプルを対象に、「メンデルランダム化」と呼ばれる手法を適用しました。
メンデルランダム化とは、遺伝の違いを利用して単純な相関関係と因果関係を区別する疫学的な手法です。
研究チームは、テストステロン値の上昇に関連する遺伝子変異を特定し、それが健康や成功にどのように関連するか調べたのです。
人の遺伝子情報は、がんに伴う変化などの稀な例を除き、通常生涯にわたって変化しません。
健康状態や社会的・経済的状況によって遺伝子が変化する可能性はほとんどないのです。
つまりテストステロン値の上昇に関連する遺伝子変異は、外部の影響を受けない不変の要素であり、その人生の結果と比べることで、テストステロンの役割が判明します。
そして膨大な調査の結果、「テストステロンが人生に成功を与えているわけではない」と判明しました。
では、これまでささやかれてきた「テストステロン成功秘話」はまったくのデタラメだったのでしょうか?
成功がテストステロンを上昇させていた!?逆ではない!
これまで「テストステロンは人を健康にしたり、人生を成功に導いたりする」と言われてきました。
実際、ある研究では男性のテストステロン値の高さと、社会的成功が関連していました。
また男性経営者を対象とした研究では、部下の数が多い人ほど、テストステロン値が高いと判明しています。
さらに金融トレーダーを対象とした研究でも、テストステロン値が高い人ほど、日々の利益が大きかったようです。
これらの結果は「高テストステロンのおかげで成功できている」と思わせるものです。
しかしヒューズ氏は、今回の結果から、別の可能性を指摘しています。
それは「健康状態が良好なおかげで、成功しやすく、テストステロン値も高い」というもの。
また「社会的・経済的成功がテストステロン値に影響を与えている可能性がある」とも述べています。
実際、スポーツの試合の研究によって、勝者は敗者に比べてテストステロン値が上昇すると分かっています。
つまりテストステロンは、何らかの良い状態の結果上昇するものであって、それ自体が良い成果を生み出していたわけではないかもしれません。
これまでテストステロンの効果は誇張されてきたように思えます。
実は多くの人が考えているほど、人生の成功に必要なものではなかったようですね。
参考文献
New Research Shows Testosterone Doesn’t Grant Success in Life
元論文
Testosterone and socioeconomic position: Mendelian randomization in 306,248 men and women in UK Biobank
提供元・ナゾロジー
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