陸上競技は1周400mのトラックを利用します。

レーンによってカーブの曲線率が異なるため、コーナーを含む200m走や400m走ではすべてのレーンが同じ条件とは言えません。

アメリカ・ミドルベリー大学(Middlebury College)経済学部のデビッド・マンロ助教は元短距離走の選手であり、「陸上のレーンはどこが最速なのか?」という疑問に回答しました。

8000人のランナーから導き出した結果は、「最速レーン神話」を覆すものだったようです。

目次

  1. 中央レーンの最速神話
  2. 統計的には外側のレーンが一番速かった!?

中央レーンの最速神話

陸上競技のレーンはどこがもっとも有利なのか?
(画像=中央のレーンが一番速くなる説 / Credit:Depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

一部の人々の間では、「中央のレーンが最速」だと考えられてきました。

陸上トラックは合計8~9レーンあるので、「3~6レーンが一番速く走れる」という考えがあるのです。

これは「中央のレーンが良い」というよりも、「内側と外側のレーンにはデメリットがある」という考えから来ています。

内側のレーンではカーブがきついため遅くなると考えられており、実際、研究によって実証されています。

外側のレーンが遅いと考えられている主な理由は、スタート位置の違いです。

各選手の走行距離を均等にするため、外側のレーンになるほどスタート位置が前方になります。

これにより外側の走者はレースの大半でライバルの姿を見ることがありません。

競争心が下がったり、集団と比較して自分のスピードを把握しづらくなったりすると考えられているのです。

ちなみに、実際のレースでは中央の走者が優勝することが多いです。

これは競技規則に基づいて、速いランナーが中央のレーンに配置されるからであり、中央レーンの最速神話の理論を支持するものではありません。

つまり最速のレーンに対する推測はあるものの、現状ではデータによる裏付けはないのです。

そこでマンロ氏は、ワールドアスレティックス(国際陸上競技連盟)の20年間の陸上競技データを使用して最速のレーンを導き出そうとしました。

統計的には外側のレーンが一番速かった!?

陸上競技のレーンはどこがもっとも有利なのか?
(画像=カーブが緩ければ緩いほど走りやすくタイムが伸びるかもしれない / Credit:Depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

陸上競技の決勝ではタイム順にレーンが決まることが多いですが、予選(第一レース)のレーン決めはランダムです。

そこでマンロ氏は予選だけのデータを使用することで、純粋なレーン差を比較しました。

約8000人分のレース結果を調査したところ、「中央が最速」という傾向はみられませんでした。

特に200m走においては、その結果が顕著に表れていたとのこと。

平均して8番レーンは2番レーンよりも約0.2秒速いという結果となりました。

外側のレーンにいくほどタイムが伸びやすかったのです。

これは世界記録が19.19秒であることを考えると、非常に大きな数値だと言えます。

この結果は、中央レーンの神話に含まれる「ライバルを目視できないとランナーは遅くなる」という考えを否定しているように思えます。

また400m走のタイムはばらつきが多く、「中央が最速である」という明確な証拠は得られませんでした。

つまりマンロ氏の調査によると、カーブのある短距離走においては、「中央よりも外側のレーンが有利」という結果が出ています。

これは「カーブが緩ければ緩いほど走りやすい」ということであり、生体力学的にも理にかなっているように思えます。

いずれにせよ、「中央レーンが最速」でない可能性は高いでしょう。

オリンピックで中央の選手が一番でゴールしたなら、それは紛れもなく本人の力量であり、手放しで賞賛できることなのです。

参考文献
Are middle lanes fastest in track and field? Data from 8,000 racers shows not so much

提供元・ナゾロジー

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