今回は、前回のブレゲと同じスウォッチグループに属するブランパンのトリロジー フィフティファゾムスを取り上げる。このトリロジー フィフティファゾムスは正直なところ、これまで当連載で取り上げてきたモデルに比べると、すごい人気だったというわけではなかったが、筆者的にはそれなりに印象に残っていたモデルのひとつでもある。
最初にブランパンという時計ブランドについて触れると、1735年創業と歴史はかなり古い。そして、スイスにある多くの時計メーカーが危機を迎え1970年代当時、ブランパンは創業家の断絶や当時の厳しい市況で壊滅的な打撃を受け、70年に倒産してしまった。
そんなブランパンが再び日の目を見るのは81年。ジャン・クロード・ビバー主導のもとSSIH(後のスウォッチ グループ)がブランパンを買収、83年に復活を遂げる。
小振りかつ薄型のムーヴメントを得意とするフレデリック・ピゲ社製を用いた、クラシックな機械式腕時計を発表。94年には普段使いの実用性に軸を置いた100m防水の2100シリーズを展開するなど、「創業以来クォーツを生産していない」ことを前面にプロモーションしつつ、高級機械式腕時計ブランドとしての存在感を高めていったのである。
そして98年、その存在をさらに知らしめるモデルが誕生する。それが“トリロジーコレクション”だ。ブランパンにムーヴメントを供給していたフレデリック・ピゲが96年にGMT機能付きムーヴメントを新たに開発したことを機に、第2時間帯表示機能を備えた“GMT(=陸)”、本格的ダイバーズウオッチの“フィフティファゾムス(=海)”、そしてクロノグラフの“エアーコマンド(=空)”と陸海空をイメージした3モデルがリリースされたのだ。
ここにクローズアップしたのは、その中の海に当たるフィフティファゾムスである。フィフティファゾムスと言えば、ブランパン・レイヴィル社時代の1953年にフランス海軍の要請により潜水部隊用として開発され、早くから回転ベゼルを装備したダイバーズウオッチとして、ロレックスのサブマリーナー同様、防水時計の歴史にその名を刻むモデルのひとつである。
このフィフティファゾムスだけでなくトリロジーコレクションに共通する最大の特徴が、スポーツウオッチとしての高い機能性と、強烈な存在感を放つ特徴的なベゼルにある。
なかでも浮き彫りにより立体的に分表示を表現したこのベゼルは、加工するのに10工程以上も必要な複雑なものだったらしく、加えて、ベゼルの表面処理は特に技術が必要だったため、当時これを加工できた職人はスイスでもほんのひと握りだったと言われるほど手の込んだものだった。ムーヴメントはもちろんフレデリック・ピゲ製、Cal.1151。なんと当時にしてすでに100時間ものロングパワーリザーブを誇る高性能機だったという点も特筆ものだ。
当時の定価は90万円台後半と、90年代のスポーツモデルにしてはかなり高額だったが、並行輸入市場での実勢価格が2000年前半で40万円台後半と、高性能にも関わらずかなり値ごろ感が高かったこともあって、どちらかというと時計好きを中心に高い支持を得たモデルだったのである。なお、現在のユーズドの実勢価格は40万円台半ばから70万円台。
トリロジー フィフティファゾムス
■商品データ
型番:Ref.2200-1130-71
素材:ステンレススチールケース
ケース径:40.5mm(厚さ13mm)
防水性:300m防水
駆動方式:自動巻き(Cal.1151、フレデリック・ピゲ)
当時の国内参考定価99万7500円
文・菊地 吉正/提供元・Watch LIFE NEWS
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