内臓に脂肪がつくメタボリックシンドロームや、肥満、糖尿病などの症状について、それを簡単に予防や治療できる新しい方法が発見されました。
それは水を飲むことです。
それだけ? と驚いてしまいますが、アメリカ・コロラド大学の研究チームは、12月15日に科学雑誌『JCIInsight』で発表した新しい研究の中で、この事実を報告しています。
糖分が肥満や糖尿病の原因となる理由
肥満、糖尿病の患者体内では、バソプレッシンというホルモン値が上昇しているとわかっています。
バソプレッシンとは、抗利尿ホルモンとも呼ばれていて、尿を作る量を減らすことで体内の水分レベルを維持する働きを持っています。
なぜ、肥満や糖尿病の人では、このバソプレッシンが上昇するのでしょう?
研究チームはその理由を理解しようと今回の研究をはじめました。
彼らはマウスを使った実験で、砂糖水(具体的には果糖:フルクトース)を与えると脳が刺激されてバソプレッシンが放出されるということを発見しました。
そして上昇したバソプレッシンは、なんと体内の水分を脂肪として貯蔵し始めたのです。
これは、肥満の原因や、糖尿病になると喉の乾きなど脱水状態が観察される理由を説明しています。
果糖の摂取と、バソプレッシンの上昇の関係性や、それがどのように作用して肥満や糖尿病を起こしているか示されたのはこれが初めてです。
「こうした作用は、『V1b』というバソプレッシン受容体を介して行われていることがわかりました」と、研究の筆頭著者、コロラド大学医学部准教授のミゲル・ラナスパ博士は説明しています。
V1b受容体の存在は、以前から知られていましたが、その機能はこれまで理解されていませんでした。
博士によると、「V1bを欠いたマウスは、砂糖の影響から完全に保護されていることがわかった」といいます。
これは肥満や、糖尿病の治療や予防に新たな展望をもたらす発見かもしれません。
しかも今回の研究は、この発見からもっとずっと簡単な肥満やメタボリックシンドロームの予防や治療方法が提案できると報告しているのです。
身体の渇きが脂肪を作っている
今回の研究は、脱水状態が脂肪の形成を刺激している可能性を示しています。
これはバソプレッシンが、簡単に水を摂取できない砂漠の哺乳類で非常に高い理由を説明しています。
ラクダのコブには、脂肪として水が保存されているという話しを聞くことがありますが、このような水を脂肪に変える働きをバソプレッシンが行っているというのです。
肥満の人は、しばしば脱水症状を示すことが医療の観察からわかっています。また塩分濃度の高い食事が肥満や糖尿病を引き起こす可能性も指摘されています。
これらもみな体内の水分レベルが、肥満、糖尿病と関連していることを示しています。
そこでチームは、マウスに水を十分に補給される水治療法を試してみました。
するとメタボリックシンドロームから効果的にマウスを保護することができたのです。
「バソプレッシンをブロックする最良の方法は水を飲むことです」とラナスパ博士は述べています。
これは複合的な要因を含んでいるでしょうが、砂糖(特に果糖)の摂取がバソプレッシンを活性化させ、バソプレッシンは体内の水分を貯蔵するために脂肪生成を促進させます。
バソプレッシンは特に体内の水分レベル維持のために働いているので、脱水状態はバソプレッシンをさらに活性化させます。
つまり、十分な水の摂取がバソプレッシンを抑制し、肥満やメタボリックシンドロームの予防と治療両方に効果的だと考えられるのです。
「今後は、肥満やメタボリックシンドロームの治療のために、水分の十分な補給と、糖類や塩分摂取を控えることがいかに役立つかを検討していく必要があるでしょう」と研究チームは語っています。
生活を脅かす病気の解決に、すぐに試せるような簡単な方法が発見されるというのは嬉しいニュースです。
まだマウスの実験だけで、人間向けの具体的なデータはわかっていませんが、このことを意識して生活してみるのも良いかもしれません。
参考文献
sci-news
提供元・ナゾロジー
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