目次

  1. あのNASAが焼いたクッキー
  2. 気になる焼き上がりは?
宇宙でオーブンを使ってクッキーを焼いたらどうなるのか?
(画像=世界で初めて宇宙で焼かれたクッキー。/Credit:Nasa/PA、『ナゾロジー』より引用)

国際宇宙ステーション(ISS)では現在様々な実験が行われていますが、今回は人類が初めて宇宙で調理に挑戦したことが報告されました。

その内容は、オーブンでチョコチップクッキーを焼くというものです。

宇宙の実験としては、「しょぼい内容では…」と思ってしまいそうですが、無重力下ではオーブンでクッキーを焼くという行為にも色々な困難が生じるようです。

あのNASAが焼いたクッキー

宇宙でオーブンを使ってクッキーを焼いたらどうなるのか?
(画像=実験に使われた0Gオーブン。/Credit:Cookies in Space: Zero G Kitchen Oven B-Roll,DoubleTree by Hilton、『ナゾロジー』より引用)

実験は無重力下での利用を想定して開発された0Gオーブンが使われました。

わざわざ0G用のオーブンを設計しなければならない理由は、地上ならば自然と起きる熱の対流が無重力下では起こらないためです。

地上では熱い空気は上に上がり、冷たい空気は下に下ります。これによって空気の流れが生まれオーブン内の温度は最終的に均一に保たれます。

しかし、宇宙では上も下もないので熱した空気の対流がうまく起こりません。そのため円筒形の四方から均等に熱する仕組みの専用オーブンが開発されたのです。

また、クッキー自体も無重力によってふわふわと動き回ってしまうため、きちんと固定する仕組みが必要です。このオーブンでは、クッキーはポーチの中にパックされていて、オーブン内にしっかりと固定できるようになっています。

宇宙でオーブンを使ってクッキーを焼いたらどうなるのか?
(画像=クッキーをオーブンに設置する様子。/Credit:NASA releases video of first space-baked cookies,Associated Press、『ナゾロジー』より引用)

クッキーの生地は予め地球で作りパッケージしたものを冷凍保存して宇宙へ運んでいます。それを国際宇宙ステーションで実際に焼いてみたのです。

気になる焼き上がりは?

地球でクッキーを焼いた場合、必要な焼き時間は20分程度でした。そこで、実験でも最初は149℃の設定で25分間焼いてみましたが、結果は完全な生焼けでした。

続く2回の実験では、焼き時間を倍の50分に延長してみましたが、こちらも完全に火の通った焼き上がりとはなりませんでした。

最後に宇宙飛行士は、クッキーを2時間かけてオーブン内で焼き続けました。ここでやっと表面が綺麗に焼き上げることができたのです。

「見たところ完全に茶色く変色しています」宇宙飛行士のParmitano氏は無線でそのように報告しました。

また最初の生焼けのクッキーを除けば、オーブンからはきちんとクッキーの焼けた匂いがしたといいます。しかし、最後に焼いたクッキーにしても、中まで完全に調理されているかはわかりません。

なぜ地上と宇宙で、これほどまでに焼き時間に差が出てしまったのかは、現在不明です。それはこれからの調査で明らかにしていくとしています。

宇宙でオーブンを使ってクッキーを焼いたらどうなるのか?
(画像=実験で焼き上げられたクッキー。/Credit:NASA/PA、『ナゾロジー』より引用)

さて、気になるお味の方は? と聞きたくなりますが、こちらも残念ながら現在のところ不明です。きちんと焼けたかどうかわからないクッキーを宇宙で宇宙飛行士に食べさせるわけにはいきません。

こちらも焼いたクッキーを地球へ運び後から調査を行うことになるそうです。チョコチップクッキーがもはや完全な危険物扱いですね。

これらのクッキーたちは、スペースX社の輸送宇宙船ドラゴンで、1月7日に地球へ持ち帰られ、現在専門家によるテストが行われているとのことです。

クッキー1枚を完全に焼くだけでも、大変な苦労ですが、人類が宇宙で調理を試したのはこれが初めのことです。慎重になるのも無理のないことです。

この実験の結果を踏まえて、今後の宇宙での調理についての研究が進められていくことになるのです。

実際、地球で20分で焼けるクッキーは2時間もかけないと表面が綺麗に焼き上がらないという状況が生まれていました。宇宙にはこんなところにも未知の問題が潜んでいるようです。

しかし、地上でも料理が生焼けになることは珍しい話ではありません。もしかしたらNASAの宇宙飛行士は、科学においてはプロフェッショナルでも、料理に関しては苦手だっただけなのかもしれません。

真相はいずれ明らかになるでしょう。

色々と改善が進んでいるとはいえ、まだまだ宇宙食は味気ないものです。

NASAの元宇宙飛行士Massimino氏は「料理は家庭の温かい記憶と結びつく重要なものだ」と語ります。食品は単に栄養を得るためだけでなく、宇宙飛行士を彼らの家庭の思い出とつなげ精神を維持するために重要なものなのです。

月や火星への探査などが可能になれば、宇宙飛行士のミッション期間は非常に長期化していくことが予想されます。

そんなときのパッケージされた乾燥食品だけでなく、焼きたてのクッキーがあることはとても重要になるかもしれません。

提供元・ナゾロジー

【関連記事】
ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功