「タイムトラベル」は、長きにわたり人類の心を惹きつけてきました。
ホーキング博士のように「時間旅行は不可能」とする科学者もいれば、リチャード・ゴット博士のように「タイムマシン」を本気で開発している科学者もいます。
もし実現すれば、過去の失敗を書き換えることも、もう会えない故人に会うことも、100年後の未来を覗きに行くこともできます。実にロマンです。
しかし人類がタイムトラベルを思いついたのは、一体いつ頃まで遡るのでしょうか。そして、なぜこれほどまで人間は、タイムトラベルに魅了されるのでしょうか。
アメリカ・ジョージア工科大学のサイエンス・フィクション研究家であるリサ・ヤシェク氏は、これまでの研究成果をもとにこの疑問に答えています。
時間は空間とともに
タイムトラベルは「3次元の宇宙を通して、過去あるいは未来に移動する」というアイデアに基づいています。そう、「空間へ言及することなしに、時間を語ることはできない」のです。
イスラエルの言語学者であるガイ・ドイチャー氏は、著書の中で「いかなる言語においても、時間と空間ほど親密に結びついている2つの領域(概念)はない」と指摘します。
そして「意識的であるにせよないにせよ、私たちは空間の言葉で時間を語っている」と述べています。
例えば、「時計」はその最たるものです。
一見して時間を代表する道具に見えますが、時計は、毎瞬間に移動する秒針の蓄積によって時間を作ります。つまり、時計の時間はすべて空間を数えているに過ぎません。
時計が示す時間と心が感じる時間に、ズレが生じるのはそのためです。
しかし、この時間と空間の不思議な親密さは、タイムトラベルの物語には打ってつけでした。空間を移動させることで、時間も移動していると錯覚できるからです。
一番最初のタイムトラベル物語とは
人類史における最古のタイムトラベルは、ヒンドゥー教の聖典『マハーバーラタ』に登場します。これはサンスクリット語で書かれた神話的な叙事詩で、時代にして紀元前400年頃のものです。
その中に、カクドゥミという王が、美しい娘レバティにふさわしい夫を探す話があります。2人は天界に赴き、創造主ブラフマーに助言を求めました。しかし、ほんの20分ほど話を傾聴し、地上に戻ってみると1億年以上もの時が経っていたのです。
これが人類が生み出した一番最初のタイムトラベル物語と言われています。
巻き込まれ型のタイムトラベル
タイムトラベルを扱った神話や民間伝承はほぼすべて、主人公が受身的に時間旅行に巻き込まれる物語です。
紀元前1世紀の中東では、とあるユダヤ人労働者が、新しく植えたイナゴ豆の木の下で居眠りし、再び目覚めると70年が経っており、すっかり実が熟していたという物語が誕生しました。(イナゴ豆の木は、実が成るのに時間がかかることで有名)
これらは「時間の遅れ(time dilation)」という現象を題材にした物語です。
「時間の遅れ」は、アインシュタインが相対性理論の中で示した「双子のパラドックス」に由来するもので、「ウラシマ効果」と同じ現象と言えます。
こうした時間遅れの物語は18〜19世紀に急増し、ワシントン・アーヴィングの『リップ・ヴァン・ウィンクル(1820)』やマーク・トウェインの『アーサー王宮廷のコネチカット・ヤンキー(1889)』、ルイス・キャロルの『シルヴィーとブルーノ(1889)』などがその代表です。
しかしまだこの時代はタイムトラベルの方法が魔法的であり、ランダム性が支配していました。
タイムトラベルは「創る時代」へ
このタイムトラベル方法に革命を起こしたのが、1895年にH.G.ウェルズが発表した小説『タイム・マシン』です。これまでと違い、自身が開発した乗り物によってタイムトラベルを行うという非常に画期的な作品でした。
この頃は産業革命に伴い、蒸気機関車や自動車が世の中に普及していった時代です。そこでウェルズは、「乗り物を使って時間旅行ができるのでは」というアイデアを思いついたそうです。
ここから、人類は得体の知れない力に巻き込まれるタイムトラベルから、科学の力による能動的なタイムトラベルへと移行していきました。
その後、ウェルズの影響を受けたクリエイターたちにより、次々と独自のタイムマシンが生み出されました。形式も小説を超えて、テレビや映画、ゲームと媒体を広げていきます。
例えば、『ドクター・フー』の「ターディス」や『バック・トゥー・ザ・フューチャー』の「デロリアン」などがそれです。
ヤシェク氏は、タイムトラベルについて「エンターテインメントとして面白いだけでなく、人生に新たな視点をもたらすという点で魅力的」だと話します。
例えば、100年前に遡って現代人の失った何かを学ぶこと、あるいは100年後の世界を垣間見ることで人類がこれから犯す誤ちを知ること。こうした視点は、現代人にとって救いにも警告にもなりえます。
タイムトラベルは、人類が今ここを正しく生きるために編み出した方法だと言えるのかもしれません。
提供元・ナゾロジー
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