Point
■メリーランド大学に送り主不明の「核キューブ」が届けられる
■「核キューブ」はナチスドイツが原子爆弾開発の際に製造していたウランを原材料とするキューブだった
■キューブの内容が普通のウラン鉱石と変わりないことから、ナチスの原爆開発は滞っていたと考えられる
2013年、アメリカ・メリーランド大学の物理学者ティモシー・ケース氏のもとに1つの金属製キューブが届けられた。
キューブに同封されたメモにはこう書かれている。
「ヒトラーが作ろうとしていた原子炉にあったもの。Ninningerからの贈り物」
送り主不明の小さな物体はなんと、第二次世界大戦時にナチスドイツが原子爆弾の開発に使用していた「核キューブ」だったのだ。
詳細な報告は、5月1日付けで「Physics Today」上に掲載されている。
Tracking the journey of a uranium cube
ナチス「B-Ⅷ原子炉」で製造されたキューブ
5cm四方のキューブには2kgのウラン鉱石が高密度で詰め込まれていた。
ケース氏の同僚であるミリアム・ハイバート氏は「見た目の小ささに比べて重量があり、手に取った人のほとんどが予想外の重さにびっくりする」と話している。
調査を進めると、核キューブはナチスが1940年代初めに行なった核実験の一環で製造されたものであることが判明した。製造場所はドイツ・ハイガーロッホにある「B-Ⅷ原子炉」だ。
「B-Ⅷ原子炉」で作られたキューブは計664個と言われており、ケース氏に送られたものはその内の1つと考えられる。原子炉はアメリカ連合軍の「アルソス・ミッション」によって施設の解体および材料の押収を受けている。
その際にキューブの行方も分からなくなったようだ。原子炉の指揮を取っていた物理学者ヴェルナー・ハイゼンベルクが近くの畑にキューブを埋めたとも言われている。
ナチスの原爆開発は滞っていた!?
ケース氏と研究チームの調査によると、キューブ内の放射性同位体の比率は普通のウラン鉱石に見られるものとほぼ一緒で、そこには核分裂生成の兆候も連鎖反応を刺激する危険性もまったくなかったとのこと。
つまりナチスの原子爆弾開発はあまり進展していなかったことがうかがえる。たとえキューブの質を向上させることができたとしても、原子爆弾を作るには量があまりに少ないのだ。
ところがケース氏は驚くべき事実を知った。
ナチスはB-Ⅷ原子炉以外に2つの場所で原子爆弾の開発を進めており、それぞれに数百個の核キューブがあったというのだ。ハイバート氏は「もしナチスが3つの研究所を協力させて開発を進めていれば、原子爆弾はアメリカよりも先に完成していたかもしれない」と指摘する。
アメリカはマンハッタン計画という1点に集中し、共同開発を進めていた。しかしナチスは自国内で分裂して競争的に研究を行なっていたのだ。両国の明暗を分けたのはこの点だったのだろう。
送り主「Ninninger」は誰?
キューブの送り主「Ninninger」の正体はいまだに分からない。
しかしケース氏は、古本屋で偶然見つけた『Minerals for Atomic Energy』の著者ロバート・D・ニニンガー(Robert D. Nininger)ではないかと推測している。
名前にはスペルミスがあるし、実際のニニンガーは2004年にメリーランドで亡くなっている。本人が送っていないことは確かだ。それでもケース氏は、ニニンガーの奥さんと電話をして確信を強めたという。
彼女によるとニニンガーは確かにキューブを所有していて、亡くなる前に友人にそれを託していたそうだ。おそらくこの友人が何らかの理由で、メリーランドの物理学者であるケース氏に送ったのだろう。
その理由が何かは、しばらく闇の中だ。
提供元・ナゾロジー
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