Point
■過去150年間に実在した「独裁者」を調査すると、彼らは経済の強化ではなく弱体化を促進させる傾向があると判明
■独裁者は自国の経済問題だけでなく、貧困層の失業率の回復や教育問題に関しても成功することがほとんど無かった
■それでも独裁者に惹かれる国民が多いのは、「強いリーダーへの絶対服従」という生物学的な心理現象による
スターリン、レーニン、金正日、ヒトラー――
世界史を賑わせてきた彼らは、絶大な権力を持って国を支配した「独裁者」として知られています。
独裁者は「国の経済を立て直した」といわれることもありますが、どうやらそうでもないようです。
オーストラリア・RMIT大学とビクトリア大学の新たな研究によって、実在した独裁者たちは経済の強化よりも弱体化を促進する傾向があることが判明しました。
主任研究員のアーメド・スカリ氏によると、1858年から2010年に実在した独裁者の国の経済成長、政治体制、政治指導者に関するデータを徹底的に分析した結果、独裁者が経済を立て直し強固にした例はほとんどなかったと言います。
研究の詳細は、7月16日付けで「Leadership Quarterly」に掲載されました。
How often do dictators have positive economic effects? Global evidence, 1858–2010
独裁者は経済を弱体化させる
研究チームは過去150年間にわたる独裁者の実態を調査する中で、自国の経済成長を組織的な方法で成功させた独裁者というのは存在しないことを発見しました。
世界の平均以上の経済成長を見せた独裁者は偶然的に見つかる程度でしたが、反対に貧困な経済国と結びつく独裁者はそれ以上に多く発見されたのです。
また独裁者は経済問題だけでなく、国内における失業率の低下や保険・教育への資金増加といった、社会的な貧困層への措置でも失敗していることが多くありました。
独裁者が政権獲得後5〜10年の成長段階で、経済的なプラスの影響を与えたという実例も見つかりませんでした。調査の結果から、独裁者は自国の経済の上昇ではなく下降に強い結びつきを持っていることが示されたのです。
なぜ独裁者に惹かれてしまうのか?
それでは経済を悪化させるような独裁者に強く惹かれてしまう国民が多いのはなぜでしょうか。
これについて共同研究員のステファニー・リジオ氏は「生物の進化的な心理現象に起因する」と指摘します。
リジオ氏によると、この心理は「何の意図も介入していないような現象に意識的・意図的な目論見を立てる」というものであり、例えば背後の茂みがガサガサと動いたらそれは単に風のせいだとしても、捕食者や敵の部族と考えるといった傾向です。
こうした考え方は自然界の動物や人間の先祖が生き残るために役立つものであり、現代の私たちにも根強く残っています。
特に社会的動物である霊長類は、オスの絶対的なリーダーという一個体の権威を受け入れるのに慣れてきました。そのため、グループレベルで成し遂げたことに対して、そこにリーダーは関わっていないとしてもリーダーの教えのおかげであると思い込むのです。
こうした無意識的な脅迫こそ、独裁者を強大なリーダーたらしめるものなのでしょう。
reference: eurekalert / written by くらのすけ
提供元・ナゾロジー
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