植物は常に、害虫の好き放題にされているわけではありません。

ブラジル・ペロタス国立大学(Federal University of Pelotas)は今回、トマトの果実が毛虫に襲われると、葉や茎など他の部位に電気信号を送ることを明らかにしました。

その信号をもとに、植物全体が防御反応を引き起こしていたようです。

研究は、7月20日付けで科学誌『Frontiers in Sustainable Food Systems』に掲載されています。

目次

  1. 果実も情報の「送り手」になれる

果実も情報の「送り手」になれる

植物には化学・ホルモン物質を通すシグナル伝達経路が多数あり、それらは一般に、内部を移動する栄養分を介して伝達されます。

しかし果実の場合、栄養分は葉や茎から果実に送られるので、逆方向、つまり果実から植物への伝達があるかどうかは、あまり研究されていません。

そこで研究チームは、果実が電気信号によってコミュニケーションをとっているという仮説を検証するべく、実験を開始。

まず、トマトの苗をファラデーケージに入れ、果実と他の部位をつなぐ茎の先端に電極を取り付けます。

次に、オオタバコガ(学名:Helicoverpa armigera)の幼虫を放し、トマトの果実が襲われる前、最中、後を24時間にわたり観察し、その電気的反応を測定しました。

さらに、機械学習を用いて、電気信号のパターンも分析しています。

その結果、幼虫の攻撃前と攻撃後の信号に明らかな違いが見られました。

防御化学物質などの生化学反応を他の部分にわたって測定してみると、攻撃された部位から遠く離れた場所でも、強い防御反応が引き起こされていたのです。

トマトは攻撃されると「防御のための電気信号」を発信すると判明
(画像=実験の様子 / Credit: Gabriela Niemeyer Reissig et al., Frontiers in Sustainable Food Systems(2021)、『ナゾロジー』より引用)

これにより、果実も他の部位と同じように、虫の攻撃にさらされると、その情報を電気信号として伝達し、コミュニケーションを取れることが示されました。

研究主任のガブリエラ・ニーマイヤー・ライシグ氏は「果実は母体となる植物の一部であり、葉や茎と同じ組織でできています。

そのため葉や茎と同様に、自分が経験していることを他の部位に伝えられるのは自然なことでしょう」と指摘します。

一方で、研究チームは、これらがまだ初期の結果であることを強調しています。

今回の測定では、すべての電気信号の「全体像」を把握したまでであって、個々の信号をより正確に区別してはいません。

また、この現象がトマト以外の種や、虫とは別の脅威(たとえば、殺虫剤や気候)にも当てはまるのかを理解する必要があります。

ライシグ氏は「この種の研究が進み、開放的な環境で電気信号を測定する技術が進歩すれば、農業害虫の侵入をかなり早い段階で検知し、害のない方法で植物を守れるようになるでしょう。

また、果実同士がどのようにコミュニケートしているか知ることで、果実の品質や害虫への抵抗力、収穫後の保存性を高めるための方法が見つかるかもしれません」と述べています。


参考文献

Tomato fruits send electrical warnings to the rest of the plant when attacked by insects

元論文

Fruit Herbivory Alters Plant Electrome: Evidence for Fruit-Shoot Long-Distance Electrical Signaling in Tomato Plants


提供元・ナゾロジー

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