2011年3月、日本の福島第一原子力発電所で原子力事故が発生しました。

10年経過した現在でも、放射線レベルの高い一部の地域では「帰還困難区域」として避難の徹底が求められています。

こうした危険区域の状況を調査するため、アメリカ・ジョージア大学(University of Georgia)に所属するハンナ・ゲルケ氏ら研究チームは、福島第一原子力発電所付近に生息するヘビの活動を追跡しました。

これにより、ヘビが残留放射線の効果的な指標生物になると判明。

研究の詳細は、7月7日付の科学誌『Ichthyology & Herpetology』に掲載されました。

目次

  1. 福島に生息するヘビの活動を調査
  2. ヘビは放射能汚染の指標となる

福島に生息するヘビの活動を調査

研究の対象となったのは、福島第一原子力発電所の北西約25kmにある阿武隈(あぶくま)高原です。

チームはこの地域に生息するヘビを1カ月以上にわたって調査し、1718匹の居場所を特定。

これにより、ヘビから検出される放射性セシウムのレベルが、捕獲された土壌の放射線レベルと高い相関関係にあると判明しました。

福島の残留放射線レベルの調査にスネークが活躍
(画像=追跡装置を付けたアオダイショウ / Credit:Hannah Gerke(University of Georgia)_Using snakes to monitor Fukushima radiation(2021)、『ナゾロジー』より引用)

そこでチームは、ヘビがどこで時間を過ごし、どこまで移動していたかなど、さらに詳しく調査することにしました。

9匹のアオダイショウ(学名:Elaphe climacophora)にGPS送信機などの追跡機器を取り付け、3カ月以上追跡したのです。

その結果、アオダイショウの行動圏は0.15~6.80ha(ヘクタール)、毎日の移動距離は30~116mだと判明。

タヌキやイノシシ、鳥と比べてはるかに狭い範囲で活動していることになります。

また小川に近い地域や廃墟となった村・農場を中心に活動していることも分かりました。

では、福島のヘビの生態からどんな点が明らかになったのでしょうか?

ヘビは放射能汚染の指標となる

福島の残留放射線レベルの調査にスネークが活躍
(画像=福島のヘビは放射線レベルの指標生物となる / Credit:Hannah Gerke(University of Georgia)_Using snakes to monitor Fukushima radiation(2021)、『ナゾロジー』より引用)

科学者たちはさまざまな環境条件を調べる際に、そこに生息する生物を利用します。

有名なのは炭鉱で有毒ガスの存在を敏感に検知する「カナリア」でしょう。

ある条件に対して敏感な生物から環境汚染レベルなどを測定するのです。

このような調査に利用できる生物を「指標生物(しひょうせいぶつ)」と呼びます。

そして今回の調査結果から、ヘビが放射能汚染に対して指標生物となることが分かりました。

同研究チームでジョージア大学に所属するジェームズ・ビーズリー氏は、その理由について「ヘビは行動圏が狭く、ほとんどの生態系の主要な捕食者であり、多くの場合、比較的長寿です」と述べています。

ヘビは限られた範囲で汚染された土壌と密接に接触するため、その地域の放射性物質を蓄積。

結果として、地域の汚染レベルがそのまま反映されるのです。

今後はヘビを指標として、放射線の影響に対する理解が深められます。

また、今回の調査からはヘビが放棄された建物内に長時間留まることも確認されています。

建物内は比較的被ばくの少ない場所のため、汚染地域ではこうした建物の存在が、ヘビたちの安全な隠れ家として機能するようです。


参考文献

Using snakes to monitor Fukushima radiation

元論文

Movement Behavior and Habitat Selection of Rat Snakes (Elaphe spp.) in the Fukushima Exclusion Zone


提供元・ナゾロジー

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