2020年、アメリカ・マサチューセッツ工科大学(MIT)に所属するサンゲータ・バティア氏ら研究チームは、尿検査でがんの有無を見極める方法を発表しました。
しかし尿検査だけでは、がんに侵されている場所を特定きません。
そこで今回、同研究チームは以前の検査用の製剤を改良し、画像検査でがんの場所も特定できるようにしました。
研究の詳細は、7月15日の科学誌『Nature Materials』に掲載されています。
尿検査でがんの存在を検知
研究チームが開発したがん検査には、がんの「全身に広がる性質」が利用されています。
がんは発生源から徐々に全身に広がっていきますが、これはがん組織に発現する酵素「プロテアーゼ」が周囲のタンパク質を切り刻むからです。
そこで研究チームは投与するナノ粒子を、「プロテアーゼによって分解されるペプチド」でコーティングしました。
ナノ粒子は体内を巡って尿と一緒に排出されますが、体内のどこかにがんがあれば、ナノ粒子には「がんによる傷跡」が残るのです。
実際に行われたテストでも、この尿検査ががんの存在を検知できると示されました。
しかし、「がんの場所」を特定できるわけではありません。
そこで研究チームは尿検査に利用した製剤(ナノ粒子)を改良することにしました。
改良された製剤は画像検査も可能!がんの場所が明らかに!
研究チームが目指したのは、1つの製剤で「がんの有無」と「がんの場所」の両方を検知するというもの。
そのため従来の製剤を改良し、尿検査だけでなく、がんの場所を特定する画像検査にも反応するようにしました。
まず、「PET検査(ポジトロン断層法)」で光って見える「銅-64(64Cu)」を追加。
PET検査とは、細胞の活動状況を画像で判断できる検査であり、がん検査にも使用されます。
しかしこれだけでは、ただ体内に広がった銅-64が検出されたり、そのまま排出されたりするだけでしょう。
そのため銅-64には、がんに引き寄せられるペプチドがコーティングされました。
がんは自身の周囲を酸性にするため、その酸性環境に引き付けられるペプチドをコーティングに使ったのです。
これにより銅-64はがん周辺に蓄積。
PET検査をするなら、画像には腫瘍の場所がはっきりと光って見えるのです。
また研究チームによると、銅-64を用いたPET検査は、ブドウ糖を用いた従来のPET検査よりも鮮明で分かりやすい画像が得られるとのこと。
実際、マウスを用いたテストでも新しい製剤の効果が確認できました。
将来的にはヒトのがんも発見できるようになるかもしれません。
しかも製剤を1種類投与するだけなのでとても簡単です。
まず尿検査だけを行い、陽性だった場合には画像検査を追加すればよいのです。
研究チームは毎年の健康診断の一部になることも想定しているようです。
参考文献
Nanoparticle urine test diagnoses cancer and pinpoints its location
A noninvasive test to detect cancer cells and pinpoint their location
元論文
Microenvironment-triggered multimodal precision diagnostics
提供元・ナゾロジー
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