世の中には奇妙な死亡事故が数多くありますが、その中に「人体自然発火」があります。
これは体内から突然発火して人体を燃やしてしまう現象ですが、「人体を燃やすには摂氏1000度が必要であり、それほどの高温が体内で生じるはずがない」と多くの専門家は否定的に見ています。
しかし、過去300年間で、200件以上の報告例があるのも事実です。
人体がひとりでに燃え始めるなんてことが本当にあり得るのでしょうか。
「人体自然発火」に見られる共通点
過去に報告された人体自然発火には、いくつかの共通点や傾向が見られます。
以下に、まとめてみました。
・犠牲者はアルコール中毒患者が大半
・事件の場所は自宅で、独り身の年配女性が多い
・手や足先は燃えずに残る
・発火した炎は、被害者の周囲の家具などにはほとんど燃え移らない
・燃えた後には、油っぽい匂いを放つ灰が残る
こうした特徴が顕著にあらわれた有名な事例が、1725年のフランスで起きています。
パリにある宿泊施設の主人が夜間に煙の匂いで目を覚ますと、隣の寝床で寝ていた妻のニコール・ミレーが灰になっていました。
あとに残ったのは、頭蓋骨と足の骨、背骨の一部のみでした。しかし、寝床のわらに火は燃え移っていなかったのです。
ミレー夫人は生前、深刻なアルコール中毒に悩まされていました。結局、主人は殺人罪で起訴され、有罪判決を受けたそうです。
こうした特徴から、科学者たちは可能性の高い原因をいくつか提唱しています。
最も可能性高い「ロウソク効果」とは?
諸説ある中で、科学的に最も支持されているのは「ロウソク効果(英: wick effect)」と呼ばれるものです。
これは被害者の体を一種のロウソクに例えます。
通常のロウソクは、内側の芯(英: wick)が燃えやすい脂肪酸でできたワックスで覆われており、そこに着火すると、脂肪分の多いワックスのおかげで火が消えずに燃え続けます。
これを人体に置き換えると、体脂肪が可燃性物質(ワックス)に、衣服や毛髪が芯(wick)になります。
例えば、衣服にタバコの残火がつくと、皮膚表面を焦がして内部の脂肪を放出させます。それが熱で溶けて衣服に吸収されると、ワックスのような働きをして、火が燃え続けることになるのです。
人体発火において周囲の家具が燃えないのは体脂肪にのみ着火するからで、手や足先が残りやすいのは十分な脂肪分がないためと言われます。
そして、体に火がついても被害者が起きないのは、アルコール中毒で昏睡状態にあるからと見られます。
その他の説
生物学者のブライアン・J・フォード氏は、人体自然発火の原因について、「アセトン」を挙げます。
アセトンは、非常に引火性の高い化学物質で、何らかの病気になると、体内に微量ながらアセトンが自然生成されることがあります。
以前の実験では、アセトンに浸した豚肉に着火したところ、焼夷弾のように一気に火が燃え上がりました。
フォード氏は「深刻なアルコール中毒により、体内に多量のアセトンが生成され、それが体脂肪に蓄積し、タバコや静電気で引火することで人体が燃え始める」と推測します。
しかし、人体自然発火には謎の部分も多く、原因の解明にはまだ決着がついていません。
現時点での有力な説は、いずれも何らかの火の元が必要であり、人体がひとりでに燃え始める可能性が低いようです。
参考文献
ancient-origins
提供元・ナゾロジー
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