目次

  1. 無音で走行、煤も煙も一切なし
  2. ソーダ・タンクが大きすぎ…
本当に実在した「ソーダ」をエンジンにして走る機関車
(画像=ソーダ機関車/Credit:amusingplanet、『ナゾロジー』より引用)

機関車と言えば蒸気が一般的ですが、「ソーダ」で走る機関車が存在したのをご存知でしょうか。

この「ソーダ機関車(Soda locomotive)」はごく短い期間しか使われなかったため、人々の記憶からはすぐに消えてしまいました。

それでも実は、「蒸気機関をはるかに上回る」と言われていた利点があったといいます。それは一体何なのでしょうか。

無音で走行、煤も煙も一切なし

ソーダ機関車は、「苛性ソーダ (水酸化ナトリウム) 」による化学反応を用いた機関車です。

苛性ソーダ はかなり危険な薬品で、一滴でも目に入ると失明の恐れがあります。一方で、水と混ざることで急激に発熱する性質も持っていました。

ドイツの化学者であるモーリッツ・ホーニヒマンは、この性質を利用して、1880年に「ソーダ・エンジン」を発明します。

本当に実在した「ソーダ」をエンジンにして走る機関車
(画像=ソーダ・エンジンのタンク/Credit:en.wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

ソーダ・エンジンはタンクの中に数トンの苛性ソーダを積載しており、水を加えると激しい発熱反応を起こします。この熱自体が、ボイラーを動かすエネルギーとなるため、石炭を燃やす火室は必要ありません。

ボイラーから出る蒸気は、通常の蒸気機関車と同じように、車輪を前進させるためにピストンを通して供給されます。

しかしこのとき、ピストンから排出される蒸気は、外の大気に放出されるのではなく、再び苛性ソーダのタンクに供給されるのです。それにより、円環的なエネルギー循環が可能になります。

ソーダ機関車は、蒸気を外に排出しないため、ほぼ無音で走行できたといい、石炭も使わないので、煤や煙をまったく排出しませんでした。

本当に実在した「ソーダ」をエンジンにして走る機関車
(画像=Credit:amusingplanet、『ナゾロジー』より引用)

ソーダ機関車は、積載された苛性ソーダの量に応じて、数時間ほど運転することができましたが、最終的に、ソーダは希釈され、蒸気を発生するのに十分な熱を作れなくなります。

すると、機関車は「再充電」のため停車駅に持ち込まれ、再度、苛性ソーダを補充します。こうして、ソーダ機関車は、もう1サイクル動力を作る準備が整うのです。

ソーダ・タンクが大きすぎ…

発明後、ソーダ機関車の第一号が誕生したのは、ドイツのアーヘンでした。

これとほぼ同時期にフィラデルフィア鉄道でもソーダ・エンジンを導入し、アメリカで初めての(そして唯一の)ソーダ機関車が運用開始されました。

本当に実在した「ソーダ」をエンジンにして走る機関車
(画像=ドイツで実用化されたソーダ機関車/Credit:en.wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

しかし1885年にミュンヘン工科大学が行った実用テストによると、ソーダ・エンジンは、石炭を利用する蒸気機関の60%ほどの燃料しか産出できないことが判明。

それに加えて、サイズも大きく、重すぎるタンクが機関車の効率や駆動力を大幅に落としていたのです。また、燃料の爆発や火傷など、苛性ソーダ自体の危険性も指摘されました。

静かでクリーンに走行できたものの、多くの点で蒸気機関に劣ることから、ソーダ機関車は歴史の影に葬り去られてしまったのです。

こうして蒸気機関の一強時代に突入するかと思いきや、花形はその後すぐにディーゼル・エンジンや電車に取って代わられました。科学の世界も弱肉強食のようです。

提供元・ナゾロジー

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