今から二十数年前、メキシコにあるアステカ文明の遺跡で、頭蓋骨の形をした奇妙な遺物が発見されました。
当時は単なる装飾品か玩具の類とされ、詳しく調べられないまま放置されましたが、その数年後、専門家たちにより「死の笛(英: Death Whistle)」として認知されるようになります。
その名前の由来は、笛が出す不気味な音にありました。
死者の声を奏でる「死の笛」の音とは?
最初に発見された「死の笛」は、アステカの遺跡から出土した20代男性の骨の中に見つかりました。
手のひらに乗るほどのサイズで、骸骨の彫刻が施され、上部は穴のあいた筒状になっています。
機械工学を専門とするロバート・ベラスケス氏は、自らの祖先であるアメリカ先住民の音楽を研究するかたわら、「死の笛」に強く興味を抱き、調査をはじめました。
ベラスケス氏いわく、「死の笛は普通の楽器ではなく、苦痛に鳴き叫ぶ人の声や千人の死者が叫ぶ声を出す」とのこと。
同氏が実演する「死の笛」の音がこちらです。
※視聴注意、動画の後半(1:10~)には100個の笛を吹いた音も収録
このように非常に不気味な音を奏でますが、「死の笛」は一体どんな目的で作られたのでしょうか。
敵の戦意を喪失させるため?
これまでの研究で、「死の笛」の用途にはいくつかの説があります。
最も有力なのは、笛の音で敵を恐怖に陥れ、戦意を喪失させるというものです。
アステカ族の戦士たちはおそらく、戦闘前に首から下げた死の笛をいっせいに吹くことで、敵軍に強いショックを与えていたと見られます。
確かに、先の動画にあるように、100もの断末魔の声が森の奥から迫ってくれば、強戦士も思わず逃げ出したくなるでしょう。
それから、生贄の儀式の際に使われたという説もあります。
死者の声を奏でることで、生贄に捧げられた魂を冥界へとスムーズに誘っていたと考えられます。
他にも、異なる笛のトーンを駆使することで、意識を高次の状態に移すという呪術的用途、心身の病の治療といった医療的用途などが挙げられます。
いずれにせよ、死者の声のような音が、人の精神に強い作用をおよぼすのは間違いないでしょう。
14世紀半ばにメキシコ高原に興り、1521年まで続いたアステカ王国は、豊かな神話体系や終末思想、生贄の儀など、魔術的な信仰に支えられていました。
「死の笛」は、そうしたアステカ社会の大きな一翼を担っていたのかもしれません。
参考文献
ancient-origins
mexicolore
提供元・ナゾロジー
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