不透明な時代の「最強の備え」ってなんですか?

企業の好成績などといった景気の良いニュースとは裏腹に、漠然とした老後不安に現実味が帯びてきた。一体、今、日本で何が起こっているのか? そして、これからの私たちの生活は大丈夫なのか? ビビリな割に何も考えてこなかった編集部Nは不安だらけだ。そこで、「ひふみ投信」のファンドマネージャーであり、投資教育にも注力している藤野英人氏に、日本経済の見通しや不透明な時代に備えるための投資の基礎知識についてうかがった。

経済は好調でも好景気を実感できない理由

――景気の良いニュースが聞こえてきますが、正直なところ実感とかけ離れているように感じます。日本経済って本当に成長しているのでしょうか。

藤野  何を見るかによりますね。僕はバブル経済のときは大学生でしたが、その頃も、新聞では「好景気の実感がない」って書かれていましたよ。

――え、バブル期の話ですよね?むしろ、日本経済が絶頂期だった頃だと思うのですが……。

藤野  「実感なき経済成長」とか書かれていたんですよ。その後景気が悪化して、しばらくしてから「あの頃は景気が良かった」ってみんな言い始めました。

その構図は今も同じです。豊かさの配分が来ない人は満足しない。それから、今恵まれている人も満足していない。どちらも、今ある状態が当たり前だと思うからです。つまり、今の景気に満足する人ってほぼいないんです。

そもそも、好景気といっても、経済成長率は前年比1%あるかないか。年収300万円の人が3万円増えたとしても、好景気の実感は湧かないですよね。ですから、景気と自分の気分はほぼ関連がないと言えます。

――では、自分で景気をリアルに実感できるようになるためには、どんなことをすればいいのでしょうか。

藤野  適切な場所に身を置くことですね。つまり、株式などに投資をしていたかどうかです。

アベノミクスによって、株価が全体で約2.5倍成長し、投資をした人たちは、恩恵にあずかることができました。一方で、そのときに行動しなかった人は好景気を実感していません。

もちろん、リスクを取れば失敗する可能性もある。ですが、リスクを覚悟して挑戦した人だけがリターンを得ることができます。

ぼんやりと口を開けていただけで、好景気の恩恵に与れるほど世の中は甘くない。そういう時代はいつまでも来ないと思いますよ。

悩む時間は機会損失!タイミングより長さが大事

――私もぼんやりと口を開けていた意識の低い人ですが、そういう人たちも今回の「老後2000万円問題」で資産運用に目を向け始めたと思います。とはいっても、2020年以降も好景気が続くのか不安なんです。

藤野  オリンピック以降の景気が良くなるかどうかはわかりませんが、良くなるとしても経済成長が前年比3~4%になることはないと思います。

1~2%するかしないか。悪くなるといっても、マイナス10%って言ったらもう大恐慌なので、それも考えにくいですが。

――どうせ投資を始めるなら、ベストなタイミングで始めたいと思っていたのですが、先を読むのは難しいですね。

藤野  投資を始めるべきベストなタイミングって、実は論理的には説明できないんです。今年なのか来年なのか、結局はバブル期のように振り返ってみないとわからない。

ただ、始めるタイミング以上に大切なのは、時間の長さです。ベストな時期にやろうと思ったら、いつまで経っても始められない。

始めるか始めないかを悩んだ時間を取り戻すことはできません。悩んだだけ、お金を増やす機会が失われてしまうんですね。

だから、どんなに小さいお金でもいいからまず始めることが大切です。3000円でも5000円でも、毎月積み立てを始めたときがベストなタイミングだろうと言われています。

ちなみに、経験則で言えば、メディアが「これからは大丈夫」と言ったときは、逆に止めるべき最悪のタイミングだと思います。

――メディアってマーケットがピークの時こそ「今が買い!」ってはやし立てる風潮があると思いますが、むしろそれが危ないってことですか?

藤野  そうです。疑ってかかったほうがいいですね。だから、私は「投資を始めるタイミングに迷ったら書店に行きなさい」とアドバイスしています。

投資における最悪のタイミングは、本屋さんに投資コーナーがたくさん設けてあって、「主婦の私でも1億円」といった類の書籍が大量に出たとき。

それが全部撤去され、「あなたのすべてを許します!」といった癒し系の本がズラッと並んで投資系の本を見かけなくなったときは、逆にチャンスなんですよね。

――もしかして、それは逆張りの発想ではないでしょうか?

藤野  まさに逆張りですね。投資をやるには最悪とか、世の中は終わりだとか、日経平均もどん底のときに、あえて投資を始める。

もちろん、そのまま上がらないこともありますが、そういうときは、後で値上がりする傾向があるんです。

でも、ネガティブなニュースが続くときに投資を始めるのはなかなか難しい。そういうときに投資をすると言うと、親や家族、友人が今は時期じゃないと止めてしまいます。

投資信託で信頼できるファンドの選び方とは?

――確かに、豆腐のように脆いメンタルの私では逆張りに限らず、リスクに耐えられる自信がありません。止める人の気持ちもわからなくはありません。一歩踏み出せない臆病者のでもできる安全な投資ってないんですか。

藤野  そういう人には、「小さく、ゆっくり、長く」投資することを勧めています。

小さくというのは、自分のリスク許容度を超えないことです。僕は、「手に汗をかかない感覚を基準に」と伝えていますね。

よく、「100万円のうち80万の勝負なら博打だが、1000万円の80万円ならダメージは少ない」という論調を耳にします。しかし、実際はそうとも言い切れません。結局、リスクの許容度は本人の感覚によるのです。

ですから、「元手の何割を運用」と厳密に考えるのではなく、自分の感覚に従って「これくらいなら大丈夫」と思える額を投資するのが大切です。

次に、ゆっくりというのは、分散投資しましょうということ。何も慌てて勝負して大金を稼ごうとしなくてもいいんです。

分散投資すれば、ある銘柄が大きく値下がりしても、値動きの違う銘柄も組み合わせることで、リスクを低減させることができます。

そして、長くというのは、時間を味方につけるということ。投資は、長く続ければ経験値が上がります。

それによって、投資の変動に慣れ、投資とは何かという自分なりの考え方が醸成されていきます。すると、経験値そのものが財産になるのです。

――なるほど!では、信頼できるファンドの見分け方はありますか?40代は時間がないので投資信託を選ぶ人が多いのではないかと思うんです。

藤野  一つは、つみたてNISAの対象から選びましょう。毎月分配型でない、手数料が高すぎない、など良心的なファンドが選ばれているからです。

また、自分が納得できる解説をしている専門家が選んだ投資信託を選ぶという方法もあります。まったく投資信託をやったことがない人に、ベストな商品は選ぶのは難しい。

だから、自分が信用できると思った人の選んだ商品を選ぶというのが妥当だと思いますよ。

人生の選択肢のためお金を増やす手段も複数に

――でも、元本割れするリスクはなくならないんですよね? なら、手堅く2000万円を貯金するのもアリかなって思えてきたのですが、それでも投資すべきでしょうか?

藤野  もちろん、無理強いはしないし、答えは長期投資一つだけではない。お金を増やすには①できるだけ長く働く②現役時代にたくさん稼ぐ③支出を抑えて暮らすという選択肢もある。

ただ、N君。老後2000万円という数字だけに固執していませんか? 今後、どこで、誰と住んで、何をしながら週末を過ごすのか、それは都会なのか田舎なのか。条件が変われば、老後に必要な金額は変わってくる。

数字に踊らされてはいけません。数字から考えるのではなく、自分の人生のデザインから考えたほうがいい。

例えば、私は最近地方に古民家を一件購入しました。80人で宴会できるほど広々とした家屋で、倉庫代なども含めて190万円。新鮮な野菜も安価に仕入れることができます。年収300万円もあれば豊かな生活ができる。

これは一つの例であって、ガンガン稼いで一等地に暮らして遊び倒す生き方もあれば、地方で子供との時間を大切にするマイホームパパになるという生き方もあります。

すると、今投資が必要なのか、貯金で十分かがわかってくる。つまり、今の自分はどう暮らしていて、今後どう生きていきたいのかという価値観が明確になって初めて、必要なお金がイメージできるのです。

――でも、人生のデザインが今後変わる可能性もあるわけですよね? 

藤野  そう、だから投資という選択肢を捨てるのは早計なのです。もしかしたら、自分の想定している老後の生活は貯金では賄いきれないかもしれない。

そのときに、お金を増やす選択肢が多いに越したことはないでしょう?お金を増やす手段が多いほど、人生の取り得る選択肢も豊かになるのです。

買ったものを棚卸しして自分の好き嫌いを思い出そう

――藤野さんは、老後における最強の備えってなんだと思いますか。

藤野  一番の堅実なリスクヘッジは、好きな仲間と長く楽しく働くことです。

多くの人が100歳まで生きる時代が間もなくやってきます。そうすると、80まで働くことが当然になる。そのとき、N君は今の会社で80歳まで働きたいと思いますか?

もしその想像が苦痛だったら今の会社はよくない。楽しくなければ、仕事も人生もハードモードになってしまう。

だとすれば、人生100年時代に重要なのは給料の高さではなく、好き嫌いを基準に仕事を選ぶことなのではないでしょうか。これは、先ほどの人生のデザインにも通じる話です。

――日本企業のビジネスパーソンって今の会社に不満を言いながら、働き続けるイメージがあります。

藤野  それは、不幸なことですよね。海外では、自分の会社が好きで「嫌だったら辞めればいい」と考えている人が多い中、日本企業では会社は嫌いだけど、給料が高いから働き続けている人が多いのがわかりやすい例です。

でも、今の会社を辞めたら損だよと、家族や周囲の人が止めてしまう。嫌いな会社に長く居ても本人はちっとも幸せにはなれません。

――結局、好き嫌いではなくて、損得だけで判断をしている人が多いということでしょうか。今の世の中って、自分は何が好きかわからなくなってしまっている人も多いと思うんです。

藤野  人は、売るものには本音が出ないけど、買う物には本音が出るということを知っていますか? 

自分が買ったものを棚卸ししてみれば、手っ取り早く自分の価値観を知ることができますよ。

一方で、仕事は誰かに売るもの。自分の価値観は関係ないので、本心を偽ることができます。ちなみに、保険会社の営業担当に、「どんな生命保険に入っていますか」という質問をしたところ、「何も入っていません」と答える人が多かったそうです。

でも、これは笑いごとじゃありません。自分が欲しくもないものを他人に売り続けるより、本当に自分でも買いたいと思える商品を扱う会社で働くほうが健全ではないですか?

これまで、好き嫌いで選ぶなと言われて好きなことを封印してきた人は少なくないはず。でも、もっと好き嫌いを大事にしてください。それが、今後のお金の使い方を含め、人生のデザインを豊かにしてくれるはずです。

「THE21」2019年9月号より

取材構成 野牧 峻

藤野 英人(ふじの・ひでと)
レオス・キャピタルワークス代表取締役社長・最高投資責任者
1966年、富山県生まれ。90年、早稲田大学卒業後、国内・外資大手投資運用会社でファンドマネジャーを歴任後、2003年レオス・キャピタルワークス創業。主に日本の成長企業に投資する株式投資信託「ひふみ投信」シリーズを運用。投資教育にも注力しており、明治大学商学部兼任講師、JPX アカデミーフェローを長年務める。『さらば、GG資本主義』(光文社新書)など著書多数。(『THE21オンライン』2019年11月13日 公開)

提供元・THE21オンライン

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