部屋に閉じこもってゲームばかりしているゲーマーは、自然のことなんて何も知らない。
そう思っている人は、考え方を改めなければなりません。
1899年のアメリカ西部を舞台にしたゲーム「レッド・デッド・リデンプション2(以下、RDR2)」には、約200種の実在する動物たちが登場しますが、その作り込みが半端じゃないことで有名です。
英国エクセター大学(University of Exeter)およびトゥルーロ大学(Truro and Penwith College)の新しい研究は、RDR2のプレイヤーとそうでない人たちに野生動物の写真を識別するテストを行いました。
すると最近RDR2をプレイした人たちが非常に高いスコアを叩き出したのです。
この研究の詳細は、7月8日付で学術雑誌『People and Nature』に掲載されています。
専門家の目から見ても野生動物の再現がスゴすぎる
『レッド・デッド・リデンプション2(以下、RDR2)』は、GTAなどのゲームでも有名なロックスター・ゲームス(Rockstar Games)が開発した西部劇の世界を体感できるオープンワールドゲームです。
西部劇のガンマンとなって物語を楽しむのがこのゲームの目的といえますが、特にゲーマーの間で話題となっているのは、このゲームの細やかな作り込み部分です。
RDR2では、世界への没入感を高めるために豊かな自然環境や、200種におよぶ野生動物が登場しますが、それらが異常なレベルで作り込まれているのです。
発売前の試遊の段階からすでに、このゲームは温度変化で馬の睾丸の大きさが変化することが話題になっていました。
RDR2は「狩り」も重要なポイントになっていて、その対象となる動物たちの表現はかなりこだわりを持って再現されているのです。
そしてその作り込みは、プロの学者まで注目することになります。
エクセター大学の地理環境科学センターのサラ・クロウリー博士は、次のように述べています。
「『レッド・デッド・リデンプション2』のディテールの細かさは有名ですが、それは動物に関しても同様です。
多くの動物は、見た目や行動がリアルなだけでなく、互いに影響しあっています。
オポッサムは死んだふりをし、熊はハッタリをかまし、鷲は蛇を狩るのです」
実際、動物学者がゲーム画面内の動物の動きや行動を観察することで、その種がなんなのか特定することができたそうです。
あまりに良くできていたため、研究者らは「ひょっとすると、このゲームを遊んだプレイヤーたちは、動物に詳しくなっているんじゃないか?」と疑いを持ちました。
そこで、RDR2のプレイヤーとそうでない人たちを対象に、野生動物の識別テストをするという実験を実施したのです。
RDR2のプレイヤーは知らぬ間に野生動物に詳しくなっていた
この実験には、55カ国から『レッド・デッド・リデンプション2』のプレイヤー444人を含めた586人の参加者が集まりました。
ただ、ほとんどの参加者は北米の男性です。
テストには、ゲーム内に登場したオジロジカ、ジャックラビット、ワニガメ、ミズウミチョウザメ、アオカケス、ベニヘラサギなどを含めた15種類の実際の野生動物の写真が使用されました。
参加者たちは、まず各動物の名前をテキストで入力し、その後、表示される複数の選択肢を選びます。
このクイズの結果、RDR2のプレイヤーは平均10種の動物を識別することができ、これはRDR2未プレイの人たちが識別できた平均7種より高いスコアです。
特に、RDR2のメインストリーをクリアしている人たち(約40時間強のプレイ)や、最近このゲームを遊んだというプレイヤーは高いスコアを叩き出しました。
特に正答率が高かった動物は、釣って食べることができる魚など、ゲーム内でも役立つタイプの動物だったようです。
逆にゲーム内でも見かけることは珍しいイヌワシなどは、RDR2のプレイヤーもあまり識別できませんでした。
また、このゲームのオンラインモードには、「自然探求家」という野生動物の生態を研究する職業が追加されています。
RDR2のオンラインモードはあまりゲーマーの評判が良くないようですが、これをプレイした人は、特に現実の動物を識別する能力が高かったそうです。
さらにこうした動物の識別だけでなく、動物の生態や行動についても、RDR2のプレイヤーたちは特別な知識を獲得していることが確認されました。
オポッサムが死んだふりをすること、ハイイログマが突進のフリなどハッタリをかましてくることなどは、通常ではあまり知られていない知識です。
実験に参加したあるプレイヤーは、羊が突進する際の動作をこのゲームで学んだと話し、こう付け加えました。
「冗談に聞こえるかもしれないけど、そのおかげで僕は現実で足を折らずに済んだんだよ」
ゲーマーの方が自然について多くを学んでいるかもしれない
部屋にこもって遊ぶゲームは、アウトドアや自然を学ぶという行為とまるで正反対のように思えます。
しかし、そんな印象とは裏腹に、実際はゲーマーのほうが深く自然について学んでいる可能性が、今回の研究では示されました。
研究の共同執筆者であるマシュー・シルク(Matthew Silk)博士は、こうしたゲームのプレイヤーは自然環境保護に対する意識さえ持つようになる可能性があると話します。
「このゲームには、現在ではかなり希少になってしまった種がいくつか登場します。
すでに絶滅しているカロライナインコはその1つです。カロライナインコの絶滅には、狩猟が関与しています。
ゲーム内ではプレイヤーがこの種を撃った場合、絶滅の危機に瀕していることが警告されます。
これを無視してプレイヤーが狩り続けると、この種は本当にゲーム内で絶滅してしまうのです」
RDR2の中では、プレイヤーの行動が環境に与える影響も強調して描かれているのです。
重要なのは、特にこのゲームが自然や野生動物についてプレイヤーに学ばせることを目的にはしていないということです。
クリエイターは、ただリアルな表現でゲームへの没入感を高め、繊細に世界を体験させることを目指しただけです。
しかし、プレイヤーはその表現に魅了されて、遊んでいるうちに意図せず自然に詳しくなっています。
トゥルーロ大学のネッド・クロウリー(Ned Crowley)氏は、その重要性について次のように語っています。
「教育者や自然保護活動家は、大作ゲームに使われている技術から学ぶことが多くあるでしょう。
例えば、没入感を持たせたり、一つ一つの行動がゲームの進行に意味を持たせていることで、人々は何の努力もせずに動物について多くを学んでいるのです」
ただ、こうした極端な作り込みが今後のゲームで常に実装できるのかというと、疑問が残ります。
RDR2のような膨大なデータをもったオープンワールドゲームは、ゲーム開発を圧迫する要因になっていて、ゲームの開発コストや制作時間を高騰させ続けています。
変な作り込みにこだわるより、ゲーム部分の面白さに注力してもっとコンスタントに作品を発表してもらいたいと考えるゲーマーも多いでしょう。
開発者も、よほどの信念とリソースの余裕がない限り、細部まで作り込んだゲーム制作は難しいはずです。
RDR2は凄まじい作り込みのゲームですが、ひょっとすると後の世では「なぜそこまで作り込めたのか?」とオーパーツのように扱われる作品になってしまうかもしれません。
けれど、ゲームが新しい学びの機会になるというのは、なにもRDR2のような作り込みだけに限った話ではないでしょう。
桃鉄で地理を学んだり、信長の野望で日本史を覚えたり、艦これやアズレンで近代史に詳しくなったという人は多いのではないでしょうか。
最近は競走馬に詳しくなってしまった人も多いでしょう。
たとえ表現が現実と異なっていても、ゲームが教育に役立っているという視点は、もっと着目されるべきことなのかもしれません。
そして、まだRDR2をプレイしたことがないという人は、ぜひその細部まで作り込まれた世界を体験して、ゲームで学んだ知識にアメリカの野生動物を加えてみてください。
参考文献
Red Dead Redemption 2 teaches players about wildlife(University of Exeter)
元論文
The educational value of virtual ecologies in Red Dead Redemption 2
提供元・ナゾロジー
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