米国で「リバースレポ」の取引額が急増している。リバースレポとは、米連邦準備制度理事会(FRB)が実施している金融調整手段の一つであり、FRBが債券などを担保に民間金融機関から資金を借り入れる制度である。金融システム全体で見た場合、資金がFRBに吸い上げられるかたちとなる。

現在、FRBは量的緩和により、国債などの買い入れを通じて毎月約1,200億ドルの資金を市場に供給しているが、6月30日に実施された翌日物リバースレポでは、落札額が約1兆ドルに達した。つまり、巨額の資金が量的緩和で供給される一方、翌日物リバースレポで吸収されており、短期金融市場は極端な「カネ余り状態」といえる。

リバースレポを積極的に利用しているのは、マネー・マーケット・ファンド(MMF)などである。MMFは従来、民間企業や銀行が発行するコマーシャル・ペーパー(CP)などを投資対象としてきた。米国の家計にとって、MMFは銀行預金の代替先であるため、家計→MMF→CPという資金の流れにより、民間企業や銀行はCPの発行を通じ、安定的な短期資金の調達が可能となる。

しかしながら、昨年来のFRBによるゼロ金利政策により、CPの金利が低下し、MMFは運用難に直面した。実際、手数料を免除しなければ、MMFの運用利回りはマイナスに転じるケースも見られ、家計の資金がMMFから流出する恐れが高まった。そのため、MMFはコストのかからないFRBによるリバースレポを選好し、これがリバースレポの取引額の増加につながったと思われる。

翌日物リバースレポでは、FRBが資金を借り入れた民間金融機関に対して利子を支払う。この金利は直近までゼロ%だったが、先月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.05%に引き上げられた。これはMMFの運用難を和らげるための施策といえるが、そもそも運用難の背景には、米経済対策の家計向け支援によって家計の手元資金が膨らみ、余剰分がMMFに流入したことなどがある。

市場では量的緩和の縮小(テーパリング)を警戒する向きも見られるが、テーパリングは国債などの買い入れ額の減額であり、カネ余り状態を解消するものではない。また、翌日物リバースレポの取引額は、前回のテーパリング時(2014年1~10月)の額を大きく上回っており(図表)、足元のカネ余りの度合いは極めて強い。テーパリングの開始は来年の年初を予想しているが、年末に向けて米10年国債利回りは緩やかに水準を切り上げ、ドル円は112円程度の水準を目指すとみられる。テーパリングに過度な警戒は不要と考えている。

テーパリングに過度な警戒は不要、ドル円は緩やかな円安へ
(画像=『きんざいOnline』より引用)

文・三井住友DSアセットマネジメント チーフマーケットストラテジスト / 市川 雅浩
提供元・きんざいOnline

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