恐竜たちの時代に終わりをもたらしたのは、1つの巨大小惑星でした。

これはもはや有名な話で、その被害についても詳細な研究が数多く報告されています。

しかし、その衝撃直後に起こった様子については、まだあまり知られていない部分です。

米ルイジアナ大学の研究チームは、石油会社から提供されたチクシュルーブ周辺の地質データから、小惑星衝突数時間後に形成された津波の痕跡を発見。

小惑星衝突の衝撃波マグニチュード11を超えており、発生した津波の高さは1500メートル以上であったと報告しています。

研究の詳細は、7月2日付で科学雑誌『Earth&Planetary ScienceLetters』にオンライン公開されています。

目次

  1. 石油会社が調査した地質データ
  2. 猛烈な津波の痕跡
  3. 高さ1500メートルの津波

石油会社が調査した地質データ

恐竜たちの生きた時代「中生代」を終わらせた原因は、巨大な小惑星「チクシュルーブ衝突体」の地球衝突だったと考えられています。

これは、現代のメキシコ・ユカタン半島にあるチクシュルーブ村から数kmの地点に落下し、直径177km以上にも及ぶ巨大クレーターを生み出しました。

ここ数年の間、この小惑星の数多くの痕跡が発見されて、世界を包み込むような砂塵の発生や、衝突地点から1500kmも離れた場所に山火事を発生させたことなど、凄まじい余波の詳細が報告されています。

そして2019年には、この衝突が起きてから数時間後に発生した津波の痕跡が発見されたのです。

今回の研究は、この発見について分析を行い報告しています。

その痕跡は、現在のルイジアナ州中央部の地下1500メートルにあった頁岩(けつがん)に保存されていました。

頁岩というのは、あまり馴染みのない岩かもしれませんが、これは泥の堆積によってできた薄く脆い岩盤で、英語では「shale:シェール」と呼ばれています。

シェールという名前ならぴんと来た人もいるかもしれません。

頁岩は有機物を含んでいた場合、そこから石油を取り出すことができ、これはシェールオイルと呼ばれています。

大手石油会社は、こうした石油の取り出せる層を探し出すため、地震波によるエコーを使って地中の構造を可視化した膨大なデータを持っています。

今回の研究は、ルイジアナ大学ラファイエット校の地球物理学者であるゲイリー・キンスランド(Gary Kinsland)氏が、10年以上前に米エネルギー会社デボン・エナジーから提供されたデータを分析したものです。

キンスランド氏の研究チームは、ルイジアナ中央部の膨大なデータから、特に地下約1500メートルの層を分析しました。

この深さは、ちょうどチクシュルーブ衝突体が地球に衝突した時期と関連している層です。

そして、そこからある痕跡を発見したのです。

それは、衝突体が発生させた巨大津波の痕跡でした。

猛烈な津波の痕跡

頁岩に保存されていたのは、メガリップルと呼ばれる化石化した波紋です。

地下の堆積層には、「漣痕(れんこん)」または「ripple mark(リップルマーク)」と呼ばれる、水や風が作った規則的な波状の模様ができることがあります。

この特に大規模なものがメガリップルと呼ばれます。

研究チームが地下の堆積層から発見したのは、最大1kmの間隔で平均16メートルの高さで刻まれたメガリップルでした。

恐竜を滅ぼした小惑星は「高さ1500メートルの津波」を引き起こしていたと明らかに
(画像=小惑星衝突の津波に関連したルイジアナ州地下層の地震画像 / Credit: KAARE EGEDAHL,sciencemag,Giant tsunami from dino-killing asteroid impact revealed in fossilized ‘megaripples’(2021)、『ナゾロジー』より引用)

キンスランドはこれが小惑星衝突時の津波が押し寄せたときにできた痕跡だと考えたのです。

彼によると、この波紋はチクシュルーブ・クレーターに向かって一直線に並んでおり、またクレーターから見つかる降下物と化学的一致する細かい粒子の層で覆われていたとのこと。

この層は、当時は海岸線沿いにあったと考えられますが、深さが60メートル以上ある深い海域だったため、衝突体が起こした津波以外では、その後この層まで届く波はやってこなかったと考えられています。

そしてこの痕跡からは、チクシュルーブ衝突体が発生させた津波の規模が明らかになったのです。

高さ1500メートルの津波

メガリップルの分析からは、チクシュルーブ衝突体の落下が起こした衝撃は、マグニチュード11を超え、発生した津波の高さは1500メートルを超えていたことが明らかとなりました。1500メートルというと、大抵の山は山頂まで飲み込んでしまうような大津波です。

富士山でさえ、その半分近くが海に沈んでしまうことになります。

小惑星の落下によって起きる津波は、映画「ディープインパクト」などで都市覆い隠すような猛烈な波として画かれています。

恐竜を滅ぼした小惑星は「高さ1500メートルの津波」を引き起こしていたと明らかに
(画像=本当に山のような津波が襲っていた可能性が高い / Credit:depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

東日本大震災では、現実の津波はこれまでのイメージと異なり、波というよりは海面上昇と呼ぶべき現象だということを知りました。

しかし、小惑星衝突による津波は、本当に山のような波が押し寄せてすべてを飲み込むような、まさに映画に描かれるような大惨事だった可能性があります。

この津波は、メキシコ湾内で何度も反射しながら次第に振幅を狭め、数日に渡って続いただろうと研究チームは予想しています。

これはその後に起きた、地球全体を包む壊滅的な時代の始まりに過ぎませんが、なんとも恐ろしい出来事であったことが想像できます。


参考文献

Giant tsunami from dino-killing asteroid impact revealed in fossilized ‘megaripples’(Science)

Fossilized Tsunami ‘Megaripples’ Reveal The Devastation From The Chicxulub Asteroid(sciencealert)

元論文

Chicxulub impact tsunami megaripples in the subsurface of Louisiana: Imaged in petroleum industry seismic data


提供元・ナゾロジー

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