最近、中国・北京大学の地質学者Ming Tang氏は、カナダ・トロント大学、アメリカ・ラトガーズ大学、中国科学技術大学の研究者と共に、「地殻の欠片」であるジルコン結晶に含まれた元素研究の結果を発表しました。
その発表によると、地球は約18億年前から10億年間、地殻変動が劇的に減速したか、完全に停止した状態だったとのこと。
これにより、その期間は地球上に山がなかったかもしれないというのです。
詳細は2月12日付けの科学誌『Science』に掲載されました。
大陸プレートの衝突で山が作られる「造山運動」
地球のプレート同士が衝突する境界では、造山運動と呼ばれるプロセスで山脈が形成されると考えられています。
プレートの片方が沈み込み、もう片方がひずみによる圧力を受け隆起するのです。
ちなみに、これら境界における大陸地殻は分厚く、マグマに支えられることで山を「持ち上げる(高くする)力」がはたらいていますが、同時に、重力と侵食作用によって山を小さくする力もはたらきます。
当然、地殻変動とマグマ作用が止まると、侵食の力が勝ち、山は削られて小さくなります。
つまり、地球の歴史という長期的なスパンで山の状態を考察すると、「地殻変動が活発であれば高い山ができる」と言え、逆に「地殻変動が無ければ山はなくなる」と言えるでしょう。
そして、古代における地球の地殻の厚さを研究するなら、過去に造山運動や地殻変動がどれほど活発に起こっていたか測定できます。
そこで研究チームは、数十年前の地殻で結晶化したジルコン鉱物の組成変化を分析することにしました。
古代のジルコン結晶で当時の地殻の厚さが判明
ジルコンとはケイ酸塩鉱物の一種であり、ヒヤシンス鉱などとも呼ばれます。
そしてこのジルコンは火成岩、堆積岩の中で広く見られ、その元素組成からはるか昔に結晶化した際の地殻状態を明らかにします。
また以前の研究によると、ジルコン結晶に含まれる元素ユウロピウムの量が結晶化したときの地殻の厚さを明らかにする可能性があるとのこと。
多くのユウロピウムは結晶に大きな圧力が加わったということであり、それは当時厚い地殻があったことを意味するのです。
さて、現代の新しい研究では、研究者たちによってさまざまなジルコン結晶が分析され、数十億年間にわたる「地殻の厚さ」の歴史が構築されました。
地球は10億年間、山がなく地殻変動も起こっていなかった!?
研究チームが提出した「地殻の厚さ」歴史によると、現代から約25億年前~5億年前の期間を通して、地殻の厚さが急落していたと判明。
特に18億年前~8億年前にわたる10億年間は地殻の厚さが最低レベルでした。
この結果は、10億年にわたって地殻が非常に薄く、山がなかったことを意味しています。
そして造山運動を引き起こす地殻変動も劇的に減速したか、停止したと考えられます。
10億年間、地球は平らな陸地と海ばかりだったかもしれないのです。
ちなみにTang氏はこの研究結果と、地質学者たちが「退屈な十億年」と呼んでいる「環境変動がない期間」が一致すると述べています。
さらに、「退屈な十億年」と地殻変動がなかったことを関連づけ、「山形成が停滞したため、リンやその他の必須元素の不足が生産性を制限し、進化を停滞させた可能性がある」とも主張しています。
しかしながら、研究者たちは「なぜ地殻変動が止まったのか?」「どうしてそんなに長い間停止していたのか?」という疑問に答えることはできませんでした。
地球から山が消えてしまった10億年間の謎を解明するには、今後さらなる研究が必要です。
参考文献
Earth’s mountains disappeared for a billion years, and then life stopped evolving
元論文
Orogenic quiescence in Earth’s middle age
提供元・ナゾロジー
【関連記事】
・ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
・人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
・深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
・「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
・人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功