アルツハイマー病は予測しそなえられる病気になりました。

11月30日に『Nature aging』に掲載された論文によれば、簡単な血液検査をするだけで将来アルツハイマー病になるかを4年前から判定する技術が開発されたとのこと。

アルツハイマー病は認知症全体の50%~70%を占める支配的な存在であるため、検査方法の簡易化は医療のありかたをかえるゲームチェンジャーになると期待されています。

いったいどうやったら、4年も前からアルツハイマーになるのかがわかるのでしょうか?

目次

  1. 血液成分とアルツハイマー病の関係を解き明かす
  2. 血液成分は4年前から兆候を示していた
  3. 軽い物忘れをきっかけにアルツハイマー病になるのを食い止める

血液成分とアルツハイマー病の関係を解き明かす

アルツハイマー病は予測できる、血液検査により「発症の4年前から判定可能」に!
(画像=アルツハイマー病は脳内にアミロイドベータが蓄積する病気 / Credit:saiseikai、『ナゾロジー』より引用)

アルツハイマー病は、脳の内部にアミロイドベータと呼ばれる毒性の高い異常なタンパク質が蓄積することが原因であることが知られています。

アミロイドベータの蓄積が進むと脳細胞を損傷して細胞死を引き起こし、記憶障害、不眠や徘徊、性格の変容がはじまります。

しかしアミロイドベータを検出する従来の方法は、脳しょう(脳脊髄液)を直接採取するため、手術リスクが高い高齢者にとって安易にできる方法ではありません。

一方、近年の研究により、アルツハイマー病を発症した患者の血液の分析が進み、いくつか特徴的な成分を検出できるようになってきました。

ただこれまでの研究は、個々の血液成分とアルツハイマー病の因果関係を示すだけであり、実用性に欠けていました。

そこでスウェーデン、ルンド大学の研究者たちは既存の成果を元に、アルツハイマー病に関連すると考えられる複数の要因(血液成分)を同時に比べる「多変量解析」を行いました。

多変量解析は人気商品の強みや弱みを調べたり、売上や顧客数を分析して新店舗の位置を決めるといった、複数の変数がからむ問題を解き明かすために用いられる手法です。

分析を行った結果「リン酸化タウ」および「ニューロフィラメント軽鎖」という2つのタンパク質の測定が、最もアルツハイマー病の予測に役立つことを発見します。

ただこの時点では、結果は計算の産物に過ぎません。

そこで研究者たちは、次の段階に踏み出しました。

血液成分は4年前から兆候を示していた

アルツハイマー病は予測できる、血液検査により「発症の4年前から判定可能」に!
(画像=2つの血液成分を調べるとアルツハイマーになるかがわかる / Credit:canva、『ナゾロジー』より引用)

計算結果が導き出した2つの血液成分が、本当にアルツハイマー病を予測できるのか?

仮説を証明するために研究者たちは募集を行い、物忘れなどの軽度の認知症を患う平均年齢71歳の573人(アルツハイマーではない)から採血を行い、長期の経時観察を行いました。

予測が正しければ2つの血液成分が多い参加者は高確率でアルツハイマー病になるはずです。

結果は時間が過ぎるにつれて、より明白になっていきました。

2つの血液成分による判定は、個々の患者が4年以内にアルツハイマー病を発症するかどうかを約90%の精度で予測できていたのです。

軽い物忘れをきっかけにアルツハイマー病になるのを食い止める

アルツハイマー病は予測できる、血液検査により「発症の4年前から判定可能」に!
(画像=アルツハイマーになる前の軽い認知症なら薬で進行をとめられる / Credit:canva、『ナゾロジー』より引用)

今回の研究により、自分がアルツハイマー病になるかを血液検査によって手軽に知ることが可能になりました。

物忘れなどの軽度の認知症はアルツハイマー病の前段階として、65歳以上の4人に1人があらわれることが知られているものの、適切な治療によって進行を防ぐことが可能です。

簡易な血液検査によって誰もが将来のリスクに備えられるようになれば、結果的にアルツハイマー病の発生件数を大幅に減らすことができるでしょう。

【編集注 2020.12.02 12:00】
記事内容に一部誤解を招く表記があったため、修正して再送しております。


参考文献

nature aging

/ written by katsu


提供元・ナゾロジー

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