「外部装置によって人間の歩行や走行の効率を上げる」というアイデアは、新しいものではありません。
これまで、多くの研究者たちが「外骨格歩行装置」の開発に取り組んできました。
現在ではある程度の成果が見られていますが、その歩みは決して順調ではなかったようです。
ここでは、外骨格歩行装置がどのように進化してきたのか解説します。
人間の歩行はどれくらい効率的なのか?
外骨格歩行装置を開発するには、まず人間の歩き方や走り方について詳しく把握しなければいけません。
外骨格歩行装置のはじまりは、「人間の歩行と走行の効率」を学ぶことだったのです。
では、これまでの研究によってどんなことが分かっていますか?
まず、ランニングの消費カロリーのうち、前進するために使われているのはわずか8%だけのようです。
残りの92%の大部分はブレーキに消費されています。
この点だけを考えると、「外部装置で効率アップさせる余地は大いにある」と感じるかもしれません。
また研究者たちは、歩行の基礎を説明するために、単純化した倒立振子モデルを開発しました。
この倒立振子モデルでは、歩行の一歩が振り子のスイングに当てはまります。
地面についた前足が振り子の支点であり、体また腰が振り子のおもりに例えられるのです。
これにより、人間にとって最も効率のよいピッチは1分間に100歩だと判明。
そして次の段階では、「人間の歩行をロボットに模倣させる」ことで、歩行に対する理解をさらに深めてきました。
1990年代の研究者は、倒立振子モデルを利用して、電源なしで傾斜面を歩く「パッシブウォーカー」を設計。
これにより、人間の歩行動作は本質的に安定しており、ほとんどエネルギー入力を必要としないと判明しました。
そしてこれらの研究が、現在の「歩行可能な人型ロボット」開発につながっています。
また2000年代初頭には、別ルートに派生した研究グループが登場。
彼らは歩行理論で「歩くロボットを作る」のではなく、「歩行者を強化する」ことを目的としたのです。
こうして本格的な「外骨格歩行装置」開発が始まりました。
歩行を外骨格装置で効率化する
2000年代初頭に開発された外骨格歩行装置のほとんどは、ユーザーの足に金属製フレームを取り付けたものでした。
ただし、これらの装置は重く、実際はユーザーが消費するエネルギーを増加させただけだったようです。
そもそも人間の歩行は非常に効率的です。
ですから、「いつ、どのように歩行に力を加えるとより効率的になるのか?」という疑問を解決するのは難しかったのです。
またその答えが分かったとしても、「外骨格の重量によってエネルギーコストが大きくなる」という課題もありました。
そのため外骨格歩行装置が本格的な成功を収めたのは2013年のベルギー・ゲント大学(Ghent University)に所属するフィリップ・マルコム氏らが開発した「足首用の外骨格」でした。
しかし、この装置を使うには絶えず電源につながっている必要がありました。
そして2015年には、当時アメリカ・カーネギーメロン大学(Carnegie Mellon University)に所属していたスティーブ・コリンズ氏らが、持ち運び可能で「電源が必要ないバネ型足首装置」を開発。
これは人間の動作からエネルギーを蓄えたり放出したりするもので、酸素摂取量の測定テストでは、「歩行時の代謝コストが7%減少した」と報告されています。
ランニングにおける外骨格と人間の適応能力
人間の走行を効率化する外骨格装置の開発も行われてきました。
しかし「走行の効率を上げるのは、歩行の効率を上げるよりも難しい」とされています。
研究者たちは、倒立振子モデルを応用して「バネ型外骨格」を開発してきましたが、成功例は多くありませんでした。
そんな中、イラン・テヘラン大学(University of Tehran)の研究チームが、腰に装着する「I-RUN」を開発。
曲がった金属棒がバネのように機能し、足の振りをサポートします。
これにより、ランニングに必要なエネルギーを8%軽減することに成功しました。
また2019年には、アメリカ・スタンフォード大学(Stanford University)に所属するコール・シンプソン氏らが、非常にシンプルな器具「エキソテンドン」を発表しました。
「両方の足首を1フィート(約30cm)のゴム紐でつなぐ」という方法で、ランニング時の消費エネルギーを6%軽減することに成功したのです。
そしてこの成果は、エキソテンドン利用者が器具に合わせて走り方を調整(歩数を約8%増加)することで達成されました。
つまり外骨格装置が人間の走り方に一方的に合わせるのではなく、人間の方も外骨格装置の特徴を把握し適応することで、全体的な走行効率が向上したのです。
この結果から、シンプソン氏らは「装置だけでなく、装置につながれた『ユーザー』を理解することが外骨格の可能性を引き出す」と考えています。
また、2020年の別の研究では、パラメーター調節可能な装置が開発され、装着者のランニングに合わせてリアルタイムで装置特性を調節しました。
その結果、15%のエネルギー節約が可能だったと報告されています。
とはいえ、この実験でも装置は電源につながっている必要がありました。
さて、このように外骨格歩行装置は、「人間の歩行理解 → モデルと装置の開発 → 装着者と装置の相互作用」という歴史をたどってきました。
本当に便利で役立つ外骨格歩行装置が開発され、普及に至るのは遠い将来かもしれません。
しかし着実に進化してきたのは事実であり、今後もこの歩行装置の分野が、文字通り一歩ずつ前進していく様を楽しみにできるでしょう。
参考文献
Improving the Human Machine
提供元・ナゾロジー
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