生後間もない赤ちゃんでも、細菌汚染によって抗生物質による治療が必要となる場合があります。

しかし、抗生物質は赤ちゃんの体に意外な影響をもたらすかもしれません。

1月26日にオンラインジャーナル『NatureCommunications』で発表された新しい研究は、生後6カ月以内に抗生物質を投与された男の子の赤ちゃんは、6歳までの体重・身長の発育が大幅に低下すると報告しています。

これは腸内細菌叢の変化が原因だといわれていますが、不思議なことに女の子の赤ちゃんには見られません。

目次

  1. 生後間もない赤ちゃんと抗生物質の影響
  2. 腸内細菌叢と子どもの成長の意外な関係

生後間もない赤ちゃんと抗生物質の影響

抗生物質を投与された男の子の赤ちゃんは、発育が大幅に低下すると判明
(画像=抗生物質の錠剤。 / Credit:canva、『ナゾロジー』より引用)

私たちの体はさまざまな細菌と共存することで成り立っています。

体に悪い菌が入ってしまった場合、抗生物質を用いた体内細菌の駆除を行いますが、この治療は体内の善玉菌も一緒に殺してしまいます。

赤ちゃんは誕生時、ほぼ無菌の状態で、そこから体に必要な細菌を獲得していきます。しかし、こうした時期の新生児に抗生物質を投与した場合、体にさまざまな影響が出る可能性があります。

イスラエルのバル=イラン大学の研究チームは、こうした影響を調査するため、フィンランドのとクルク大学病院が2008年から2010年の間に生まれた1万2千人以上の赤ちゃんを対象としたコホート調査のデータを調べました。

ここで調査された赤ちゃんには、乳児の成長に影響するような、遺伝的以上や慢性障害はなく、全体の9.3%にあたる1151人の新生児が、何らかの治療のために生後14日以内に抗生物質を投与されていただけでした。

ここから、6年間の成長記録を追った研究チームは、抗生物質を幼い頃投与された赤ちゃんのうち、男児だけが2歳から6歳までの間に有意に低い、身長とBMI(体格指数)を示したのです。

女児にはこの傾向は見られませんでした。

この観察結果は、ドイツで行われたコホート調査のデータからも同様に再現されており、生後間もない期間での抗生物質の投与、男児の発育に大きく影響していることが明らかとなったのです。

抗生物質の影響として考えられるのは、腸内細菌叢への影響です。

研究者は、6歳までの成長に腸内細菌叢の組成が関係している可能性を疑っていますが、この結果にはいろいろと不思議な事実を伴っているのです。

腸内細菌叢と子どもの成長の意外な関係

抗生物質を投与された男の子の赤ちゃんは、発育が大幅に低下すると判明
(画像=腸内に発生する細菌たち。 / Credit:canva、『ナゾロジー』より引用)

この研究において不思議なことは、新生児の抗生物質は生後14日以内の一時的なもので、長期的な投与などは行われていなかった点です。

そのため調査時、抗生物質を投与された赤ちゃんは、生後1カ月の段階では他の子と比較して有意に腸内細菌叢の豊富さが低い状態でしたが、生後6カ月には、他の子と変わらないレベルまで細菌の豊富さが回復していました。

そして、12カ月から24カ月の間では、十分に高いレベルの細菌の豊富さを獲得していたのです。

それにも関わらず、抗生物質を投与された子どもは6歳までの体重、身長の発育が他のこと比べて明らかに低かったのです。

そこで、研究チームは抗生物質を投与された赤ちゃんの腸内細菌叢と、投与されなかった赤ちゃんの腸内細菌叢を採取して、無菌状態のマウスに与えて成長の変化を確認してみました。

すると抗生物質を投与された赤ちゃんの細菌を移植されたオスのマウスは、他のマウスより成長後の体がはるかに小さかったのです。

これは明らかに、生後14日以内に抗生物質の投与が腸内細菌叢の組成を変化させ、それが体の成長に長期間障害を与えていることを示唆しています。

ただ、不思議なことに女児ではこの傾向が見られませんでした。

この理由は現在も調査中で、明らかにはなっていませんが、男性と女性は生後2日という早い段階から腸内の遺伝子に違いが確認されるといいます。

こうした腸の遺伝子発現の性差が関連している可能性は高いと考えられます。

抗生物質を投与された男の子の赤ちゃんは、発育が大幅に低下すると判明
(画像=赤ちゃんの発育と誕生直後の腸内細菌叢の発達には思いの外重要な関連性があるようだ。 / Credit:canva、『ナゾロジー』より引用)

新生児の一時期に投与された抗生物質が、長期的な影響を及ぼす可能性が今回の研究によって示されました。

ただ、抗生物質は細菌感染の治療に欠かすことのできない重要な薬であり、子どもの命を救うものです。

長期的な望ましくない影響は考慮していかなければなりませんが、新生児への抗生物質の治療を拒む理由にはならないでしょう。

腸内細菌叢には、生物にとって意外なほどさまざまな影響があることが以前から報告されていますが、生後にどういった組成になったかということが、その後の発育に影響しているというのは、驚くべき報告です。


参考文献

Bar-Ilan University

元論文

Neonatal antibiotic exposure impairs child growth during the first six years of life by perturbing intestinal microbial colonization


提供元・ナゾロジー

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