太陽光と二酸化炭素(CO2)から有機物をつくる「人工光合成」は、既に実現済みです。
ただし従来の人工光合成は効率と拡張の面で、実用レベルには至っていませんでした。
ところが最近、トヨタ自動車グループの豊田中央研究所は、実用サイズの人工光合成セルで世界最高の変換効率7.2%を実現しました。
これは植物の光合成を上回る効率とのこと。
研究の詳細は、3月17日付けの科学誌『Joule』に掲載されました。
目次
人工光合成で太陽光とCO2からクリーンな燃料「ギ酸」をつくる
人工光合成セルを実用レベルに拡張!世界最高の変換効率7.2%
人工光合成で太陽光とCO2からクリーンな燃料「ギ酸」をつくる
光合成は、植物が「太陽光とCO2から酸素をつくる」反応として知られていますが、実はもう少し複雑です。
最初に光エネルギーを使って水から電子を引き抜き、酸素と水素イオンに変換。
その後、引き抜かれた電子は電流として葉緑体の中を巡り、CO2を用いて有機物である糖をつくるのです。
この糖は植物を成長させるための燃料またはエネルギーとなります。
つまり植物の光合成とは、太陽エネルギーとCO2を、「植物が利用できる燃料」に変換する反応でもあります。
同じように、人工光合成とは、太陽エネルギーとCO2を「人間が利用できる燃料」に変換する反応です。
ちなみに人工光合成では、糖ではなく「ギ酸」を生成。
クリーンエネルギーとして注目されているのは水素ですが、気体の水素は貯蔵が難しく、高コストというデメリットがあります。
そこで役立つのが液体のギ酸です。ギ酸からは水素を生成できるため、貯蔵が簡単な液体燃料として幅広く役立つのです。
人工光合成セルを実用レベルに拡張!世界最高の変換効率7.2%
豊田中央研究所の人工光合成は、半導体と分子触媒を用いています。
太陽電池で電流を発生させ、CO2の還元反応と水の酸化反応を起こし、常温常圧でギ酸の合成を可能にしているのです。
この技術自体は2011年に実証済みでしたが、太陽光変換効率は0.04%というわずかなものでした。
その後研究を重ね、2015年には植物を上回る4.6%の変換効率を実現。ただし、この段階でも実用化は遠いと考えられていました。
小さな葉っぱ1枚が糖を生み出す程度では全く役に立たないのと同じで、小さな人工光合成セルの変換効率がある程度アップしたところで実用には至らないのです。
つまり研究者の課題は、変換効率を低下させずに、人工光合成セルを実用レベルにまで拡張することでした。
さらに研究を重ねたチームは、今回、実用サイズと言える36cm角の人工光合成セルの作成に成功。
しかも変換効率は落ちるどころか、世界最高の7.2%に向上したのです。
この成果は新しいセル構造と電極、必要成分が途切れない供給法によって成し遂げられました。
加えて新しいセル構造は、より大きなサイズにも適用できるとのこと。
今後研究チームは、工場等から排出されるCO2を回収して、人工光合成によって資源化するシステムの実現を目指します。
参考文献
太陽光でCO2を資源に! 人工光合成の飛躍的進展
元論文
A large-sized cell for solar-driven CO2 conversion with a solar-to-formate conversion efficiency of 7.2%
提供元・ナゾロジー
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