老後の資金不足への不安が高まる中、私的年金へのニーズが高まっている。個人年金保険はその候補となり得るのだろうか。他の金融商品と比較するためには、利率に関する正しい知識を身に付けることが不可欠だ。

個人年金保険の利率を表す指標

個人年金保険に入るとどのくらいお金が増えるのかを示す指標が利率だが、「予定利率」や「返戻率」といった複雑な用語が誤解の元になっている。

「予定利率」とは契約者に保証する利率とイコールではない

貯蓄型の保険を検討する上で必ずおさえたいのが「予定利率」だ。予定利率とは保険会社が契約をする時に約束する運用利率で、「受け取った保険料はこのくらいの利率で運用します」という基準を示すものだ。

業界標準の予定利率が2017年に引き下げられたことを受けて各社の予定利率は低い水準にある。たとえば業界シェア1位の日本生命の予定利率は2017年以降0.85%だ。業界では1990年代には6%を超えることもあったが、日銀のマイナス金利政策の影響でここまで下がってしまった。

予定利率は、集めた保険料のうち事業経費などを差し引いた残りを運用する際の予測だ。したがって契約者に保証する利率とはイコールではない。予定利率が0.85%なら契約者が受け取るお金の利率はもう少し下回る。契約者から見て払った額に対していくら戻ってくるかは「返戻率」で表される。

「予定利率」と「返戻率」の違い

個人年金保険や学資保険では「返戻率」という言葉をよく耳にするだろう。返戻率とは、支払った保険料の総額に対して、将来に受け取れる金額の割合を表したもの。100%を上回ればプラス、下回れば元本割れである。支払い保険料総額が100万円で110万円戻ってくれば返戻率は110%となる。

返戻率で注意すべきなのは、時間軸がないことだ。返戻率は契約期間が長いほど高くなる。そのため他の利率と比較する際には年率に換算する必要がある。たとえば支払期間10年で返戻率108.3%だとすると年率に換算すれば約1.0%である。

個人年金と銀行預金はどちらがトクか

超低金利時代に入って、個人年金のように保険で貯蓄することの優位性は薄れてきていると言われている。では、銀行の預金と比べるとどうだろうか。なお、ここでは個人年金は定額個人年金のことを指し、外貨建て個人年金や変額個人年金保険は想定しないものとする。

利率だけなら個人年金保険が高い

銀行預金の金利も低金利政策の影響を受けて長く低迷している。大手都市銀行では普通預金の金利は0.001%が一般的で、ネット銀行では0.1~0.2%のところもある。

定期預金では1年定期なら0.01~0.20%、3年定期なら0.01~0.30%といったところである。ネット銀行ではキャンペーンや証券口座との連携などの制約付きで高めの金利が付くパターンがよく見られる。

一般的な銀行では普通預金金利0.001%、定期預金金利0.01%であることが多い。

個人年金保険の返戻率の相場を見てみよう。保険会社や契約内容によってさまざまだが、総じて100%は何とか超えるものの、かつてのように110%を超えるものは見当たらない。払込期間10年で返戻率102.8%、20年で106.7%、30年で107%がせいぜいだ。

30年で107%の返戻率を年率に換算すると0.3%となる。銀行の金利は頻繁に変動し、30年定期も存在しないので断言はできないが、かなりの確率で個人年金保険のほうが利率は高いと言えるだろう。

個人年金保険のデメリット

個人年金保険が銀行預金よりもデメリットとしては、流動性の低さがあるだろう。個人年金は払い込み満了年齢が設定されており、それまでの10~30年は原則としてお金を引き出せないことになっている。

それでも何らかの理由で解約を希望する場合は解約返戻金を受け取ることができる。ただし解約返戻金はそれまでに支払った保険料の総額を下回ることが多い。払い込み完了直前でもない限り、返戻率は100%を切ってしまう。

また、個人年金はインフレに対応できないという弱点がある。インフレによって市場の物価が上がり貨幣価値が下がると、契約時に返戻率が決まってしまっている個人年金は相対的に価値が下がってしまう。

支払った保険料より5%増えても、物価が10%上がっていると実質元本割れというわけだ。一方、預金金利はインフレとともに利率が上がるので預金の貨幣価値も上昇する。銀行預金はインフレに対応可能なのだ。

老後の資金は個人年金以外の選択肢も比較検討

かつては私的年金といえば個人年金保険と言われるほど浸透していた。今でも21.9%の世帯が個人年金に加入している。しかし、超低金利時代がこれからも続くのであれば、長期間動かせないのに関わらず利率が低い個人年金にどれだけ魅力を感じる人がいるだろうか。

例えばiDeCo(個人型確定拠出年金)なら掛金が全額所得税控除の対象になる。所得が高めで企業年金が手薄な人にはかなり頼もしい制度だろう。ただし元本保証ではなく、自ら証券会社を探して銘柄を選ぶ必要があるため、ある程度の金融リテラシーが求められる。

つみたてNISAも長期の資産形成に適している。対象商品が安全性の高い金融庁承認のものに限られ、売却益や配当にかかる税金が最長20年間非課税となる。初心者にも適しているが、こちらも元本保証ではない。

元本が保証される、ある程度の利率が期待できる、運用は完全におまかせできる、強制的に貯蓄ができるといった点を考えると、個人年金保険はこれからも資産運用の有力な候補のひとつとなるだろう。

文・篠田わかな(フリーライター、ファイナンシャル・プランナー)
 

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