1億7000万年以上に渡って地球を支配していた恐竜たちは、約6600万年前、中米ユカタン半島に落下した小惑星によって歴史から姿を消しました。
これは恐竜絶滅についての、もっとも一般的な解釈ですが、これに異を唱える説があります。
それは恐竜が小惑星の衝突以前から、すでに絶滅に向かっていたというものです。
フランス国立科学研究センター(CNRS)の研究チームは、化石を正確な年代測定のもと分析すると、恐竜は小惑星衝突前から大きく多様性を失っていて絶滅率が上昇していたと報告しています。
小惑星がとどめを刺した事実は変わりませんが、どちらにせよもはや彼らの支配する時代は終焉を迎えていた可能性があるようです。
研究の詳細は、6月29日付でオープンアクセスジャーナル『Nature Communications』に掲載されています。
恐竜たちの時代の終焉
人類という種が誕生してから約700万年といわれていますが、恐竜たちは約1億7000万年もの長い期間繁栄を続けていました。
これを1つの巨大な小惑星が終わらせたというのは有名な話です。
しかし、長かった恐竜の時代は、本当にそんな突然に終わりを迎えたのでしょうか?
実は古生物学の研究では、恐竜たちは、小惑星の落下前からすでに絶滅に向かっていたのではないか? という議論があります。
1つの壊滅的なイベントによって、恐竜は突然絶滅したのではなく、その以前から段階的に彼らの絶滅は進んでいたのではないかというのです。
根拠の1つとなるのが、恐竜の絶滅時期は、超大陸パンゲアが、ローラシア大陸とゴンドワナ大陸という2つの超大陸に分裂した時期と一致していることです。
こうした地球環境の激変は、それまで繁栄してきた種の大量絶滅イベントに大きな役割を果たします。
2016年に発表された系統発生学の研究では、恐竜が突然絶滅したという考えには異議を唱えており、小惑星衝突以前から恐竜が衰退していたという可能性を示唆していました。
しかし、化石記録は曖昧な情報であり、確実な証拠としてこの事実を示すことはかなり困難です。
そのため2016年の研究についても、化石年代の不確実性や、抽出方法の問題点(サンプルバイアス)を指摘し反論した研究が報告されています。
そこで今回、フランス国立科学研究センター(CNRS)の系統発生学者ファビアン・コンダミン(Fabien Condamine)博士が率いる研究チームは、ベイズモデリング法という新しいデータ分析法を使い、不完全な化石記録、化石年代測定の不確実性、進化モデルに関する不確実性などいくつかの問題を排除した化石分析を行いました。
チームは、247種の1600の恐竜の化石を分析。
アンキロサウルス科、ケラトプス科、ハドロサウルス科、ドロマエオサウルス科、トロオドン科、ティラノサウルス科の主要な6つの恐竜科の種分化と絶滅率をモデル化して評価しました。
種分化率というのは、環境変化に適応した新しい種が発生している確率のことです。
チームの分析結果では、ユカタン半島に小惑星が落下する約1000万年前からすでに、鳥類以外の恐竜の多様性が低下し始めていたことが示されました。
種の多様性の低下は、恐竜たちが変化する新しい環境に適応できなくなっていたことを意味しており、彼らの絶滅率の増加と関連していきます。
つまり、新しい精密な分析では、恐竜たちは小惑星落下の1000万年前からすでに絶滅に向かっていたというのです。
では、なぜ恐竜たちは、小惑星に関係なく絶滅の危機になったのでしょうか。
この時代に一体何が起きたのでしょう?
なぜ恐竜たちは絶滅したのか?
重要なことは、恐竜たちが非常に地球が温暖な時期に繁栄していて、暖かい時期の多様化に有利な種だったということです。
彼らは安定した体温を維持するために、温暖な気候に依存していました。これは特に大型の恐竜にとっては大きな問題になります。
そのため彼らは、涼しい気候には対応しづらい種だったのです。
白亜紀後期は、地球が徐々に涼しい気候へ変化していたことが示されています。
カメのような爬虫類は、温度によって胚の性転換が決定されるため、恐竜も同様だった場合、温度の低下によって恐竜たちは性の多様性が喪失したという可能性もあります。
ブリストル大学の古生物学者であるマイク・ベントン(Mike Benton)教授は次のように説明します。
「恐竜たちが絶滅に向かったことには、主に2つの要因があることがわかりました。
1つは、全体的な気候の冷え込みで、これが温暖な気候に依存した恐竜の生活を困難にしました。
これによりまず草食恐竜が失われ、生態系が不安定になり、絶滅の危機に瀕することになったのです。
もう1つは、彼らが長寿命であったことです。そのため地球の新しい環境に対する適応速度が遅かったのです」
そして、1億6000万年に及んだ恐竜たちが衰退をはじめたことで、哺乳類を含む他のグループが支配的になってきました。
恐竜たちはとても巨大だったので、下草の中に小さな毛皮の生き物たちがいたことなど気づいていなかったでしょう。
しかし、哺乳類は恐竜たちが去る前に、種の数を着実に増やしはじめ、それは小惑星の衝突後、新しい生態系を構築するために貢献したのです。
ただ、今回の研究が完全な情報であるとは認めない研究者もいます。
スペインのビーゴ大学のアルフィオ・アレッサンドロ・キアレンザ(Alfio Alessandro Chiarenza)氏は次のように述べます。
「白亜紀末期の岩石はほとんどの地域で保存されておらず、北米の60%の地域にこの時代の化石がありません。
アフリカや、ヨーロッパ地域でも、この時代の恐竜の多様性は特定できないのです。
アジアに至ってはまったく適切な岩石がありません」
実際恐竜の絶滅がどのように進んでいたかは議論の余地があるようです。
しかし、もし小惑星の衝突がなかったとしても、長く繁栄しすぎた恐竜の時代を、地球環境はそろそろ終わらせようとしていたのかもしれません。
参考文献
Large Dinosaurs Were Prone to Extinction Way Before The Asteroid, New Study Argues(sciencealert)
元論文
Dinosaur biodiversity declined well before the asteroid impact, influenced by ecological and environmental pressures
提供元・ナゾロジー
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