長く尾を引く彗星の新しい発見は、たびたび話題にあがる天文学のニュースです。
しかし、今回話題になっている新しい彗星はサイズがこれまでとぜんぜん異なる様です。
米ペンシルベニア大学の2名の研究者が、ダークエネルギーサーベイ(DES)のデータから発見した新しい彗星「Bernardinelli-Bernstein(バーナーディネリ・バーンスタイン)彗星」は、大きさが100~200kmと推定されています。
これは典型的な彗星のサイズの約10倍の直径であり、質量の推定は通常の彗星の約1000倍です。
この彗星は遠く離れた「オールトの雲」から数百万年かけて太陽方向へ飛来していて、2031年にもっとも太陽に接近すると予想されています。
世界最高のデジカメ「ダークエネルギーカメラ」が捉えた新しい彗星
今回新たな彗星を発見したのは、米ペンシルベニア大学の、ペドロ・バーナーディネリ(Pedro Bernardinelli )とゲイリー・バーンスタイン(Gary Bernstein)という2人の天文学者です。
彗星の正式名は「C/2014 UN271」で、通称は2人の発見者の名前をとり「Bernardinelli-Bernstein(バーナーディネリ・バーンスタイン)彗星」と呼ばれています。
名前からわかるように最初に発見されたのは2014年です。
ただ発見当初はそれがどんな動きをする何の天体かはっきりわからないので、正式な登録までにはタイムラグがあります。
バーナーディネリ・バーンスタイン彗星は、複数の天文台の観測から、長周期彗星としての活動が報告されたので、2021年6月24日に正式に新たな彗星「C/2014 UN271」として登録されたのです。
新たな彗星の姿を撮影したのは、2013年から2019年にかけて広域の夜空を撮影している世界最高峰のデジタルカメラ「570メガピクセルダークエネルギーカメラ(DECam)」です。
このカメラは、ダークエネルギーサーベイというダークエネルギーの調査を行う国際的巨大プロジェクトで使用されていて、5000平方度の夜空を観測しています。
平方度というのは夜空の広さを表す単位で、たとえば北斗七星を尻尾にした「おおぐま座」の大きさは1280平方度です。
ダークエネルギーサーベイは、このおおぐま座の約4倍強の広い夜空を観測し、3億個もの銀河をマッピングしています。
ダークエネルギーというのは、宇宙を加速膨張させていると考えられる未知のエネルギーです。
名前が暗黒物質(ダークマター)と似ていますが、まったく別のものです。
宇宙で私たちにわかっている既知の物質(バリオン)は、だいたい全体の4%程度と考えられていて、他はダークマターが23%、残りの73%近くがダークエネルギーだと考えられています。
この壮大な観測では、遠くの銀河以外にも、この広い調査領域を通過する太陽系外縁天体(TNO)や彗星などを多数観測しています。
TNOは海王星の軌道を超えて太陽系を回る天体の総称です。冥王星などはこれに含まれます。
DESのデータには、約160億個もの個別の天体が映っていましたが、これを高度な識別・追跡アルゴリズムによって分析したところ、800個以上がTNOであるとわかりました。
さらにこれを分析したところ、そのうち32個はすべて同じ1つの天体であると識別されたのです。
それが、今回発見された彗星「C/2014 UN271」だったのです。
史上最大の彗星
今回発見された「バーナーディネリ・バーンスタイン彗星」のもっとも驚くべき点は、それが100~200km近いサイズを持つと予想されていることです。
この大きさの推定は、太陽光をどれだけ反射しているかという分析に基づいています。
典型的な彗星のサイズは、だいたい数km~数十kmとされています。
これまで発見された中で最大の彗星は、1995年に発見されたヘール・ボップ彗星ですが、その直径は60kmほどです。
それを考えると、今回の「バーナーディネリ・バーンスタイン彗星」がいかに規格外の大きさをした彗星がよくわかります。
彗星は、氷の天体で太陽に近づくと蒸発して、コマや尾と呼ばれる明るくキラキラしたガスを伸ばします。
彗星も太陽系の天体で、太陽の周りを回っています。
ただ、彼らは非常に太陽から離れた太陽系のはるか外縁からやってくるので、軌道は細長く、軌道周期は非常に長くなります。
その中でも公転周期が200年未満のものは短周期彗星と呼ばれ、200年以上のもは長周期彗星と呼ばれます。
太陽系の周りには、2つの彗星の供給源(故郷となる領域)があります。
それが「エッジワース・カイパーベルト」と「オールトの雲」です。
「バーナーディネリ・バーンスタイン彗星」はオールトの雲からやってくる長周期彗星で、その公転周期は300万年を超えると推定されています。
それは、もしこの彗星が以前に地球の近くまで来たことがあったとしても、そのときはまだ人類自体が誕生していなかったことを意味します。
オールトの雲にある彗星は、太陽系が形成されて間もない頃に吹き飛ばされた氷や塵の破片が集まったものです。
研究者たちは、今回の彗星がこれまでオールトの雲から検出された天体の中で最大のものになるだろうと話しています。
彗星は2021年6月時点で、太陽から20au(天文単位,20auは地球-太陽間の20倍、約30億km)の距離にあり、20等級で輝いています。
オールトの雲からやってくる彗星は、太陽系平面に対して立体的な軌道をとりますが、「バーナーディネリ・バーンスタイン彗星」は太陽系平面に垂直な軌道を持っていて、2031年に太陽に最も接近すると考えれています。
このとき彗星は約11auの距離まで太陽に接近すると予想されていますが、これは土星の軌道よりも外側のため、地球からこの彗星を肉眼で見ることは難しいだろうと考えられます。
ヘール・ボップ彗星は1997年に地上から肉眼でも見ることができましたが、その5倍以上あると推定される「バーナーディネリ・バーンスタイン彗星」は、残念ながら地上からその姿を見ることはできなそうです。
しかし、そんな巨大な彗星が、あまりに地球に近づくといわれるのも不安なので、それはそれでいいことなのかもしれませんね。
参考文献
Giant Comet Found in Outer Solar System by Dark Energy Survey(NSF’s NOIRLab)
提供元・ナゾロジー
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